女除霊師の密かごと
周囲の声も自分の心音も、妙に遠く感じた。唯一はっきりと聞こえたのは泣き声だった。
廊下の向こうで私を見ていた三人の子どもたちが、いつの間にか部屋に入り込んで、遺体を見ながら泣いていた。
顔をくしゃくしゃにしながら、「お母さん」と呼ぶ声が、何度も何度も響いた。
それを聞いて私はようやく理解した。この女は彼らの母親だったのだと。そして私は、彼らの母親を殺したのだと。
何を勘違いしていたのだろう。
私は輝く兄のようにはなれない。覚悟も判断も、甘かった。
――〝妹〟である私が出しゃばったところで、ろくなことにならない。
「ニャア」
ぺし、ぺし、と柔らかな肉球が頬を叩いてくる感触で目を覚ました。視界にぼんやりと映るのは、私の顔を覗き込む一匹の猫、ミナトだった。
その目は心配そうに揺れ、何度も顔を叩いて私を起こそうとしている。
口の中がひどく渇いている。喉が焼けつくようで、起き上がると同時に激しく咳き込んでしまった。額は汗でじっとりと濡れており、全身の節々が重い。
もう三日、高熱が続いていた。学校にも行けず、食欲もなく、布団の中で悪夢にうなされ続けている。
視線をローテーブルへ落とすと、そこには一枚の紙がある。宅配便の不在票だ。手を伸ばし、それを指先で摘む。細い紙の表には、実家の住所が記されている。
「……ミナト」
隣で丸まっていた猫に声をかける。
猫の耳がぴくりと動いた。けれどまだ、ミナトの意思は起きていないようだった。
「嫌な思い出と真正面から向き合うのは、きついよね」
不在票をぎゅっと握る。心のどこかで、まだ迷っている。
「分かるよ。私も、逃げ続けてる人間だから」
それでもぽつりと、自嘲的に問いを投げた。
「……もしも私がもう一度除霊をしたら、ミナトも勇気を出してくれる?」
猫は反応しなかった。