女除霊師の密かごと
気まずくて視線をそらす。わずかな沈黙が走った後、次に口を開いたのは、博士だった。
「分かりませんか? 僕は、推薦枠がほしいわけでも、付属大学に進学したくてこの学校に入学したわけでもないんです」
その声音が存外悲しそうで、私は顔を上げる。
「僕は、優眠さんと除霊がしたいんです」
博士が私をまっすぐに見つめていた。
その言葉がずくんと体に浸透してきて、鞘袋の紐を握りしめた。
私は独りぼっちのくせに、独りを選んできたくせに、独りじゃ何もできない。
人の命を奪って除霊から逃げた。さっきだって、自分が出しゃばってもろくなことにならないと思って、覚悟が揺らいでいた。
でもこの人は、学校一の優等生は、あの日私が殺した女性の家族は、私と除霊がしたいと言う。
何でよりにもよって私が一番罪悪感を抱えている一族が、私のことを独りにしてくれないんだろう。ずっと手を差し伸べ続けてくれるんだろう。
博士には言わないでおこうと思っていた事実を、私はやっと外に出す。
「――ミナトの意識が、なくなった」
博士が息を呑む気配がした。
私が体調を崩した辺りから、ミナトはずっと猫のままだ。本当は、実の弟である博士にこんなことを言ったら動揺すると思って、黙っているつもりだったけれど。一緒に行くのなら、先に伝えておいた方がいい。
「……それは確かですか?」
「分からないけど、一日中ずっと猫のままでいることはこれまでなかったから、多分もう、時間がないと思う……」
俯いて答えた。
私は焦っている。冷静さを欠いている。だから本来はもっと事前準備をしてから向かった方がいい場所へ、単身で乗り込もうとしていた。
「だから博士、一緒に行こう」
私は意を決して頼んだ。
「分かりました」
博士が覚悟を決めたように、あっさりとそう返してくれる。まるで一緒に買い物でも行くみたいに。
「すぐに準備をして、僕も行きます」
私は頷いて、涙を手で拭った。
そうだ。私一人じゃ何もできなくても、この人と一緒ならどうにかできるかもしれない。
山本家の人間を、今度こそ守ってみせる。