女除霊師の密かごと
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「旧校舎、汚……」
旧校舎の階段から地下へおりた瞬間、むわっとした埃の匂いが鼻を突く。何年も手入れされていないことは一目瞭然だった。
私と博士は肩を並べて歩き続けた。
しばらくして目の前に現れたのは、体育館ほどの広さを持つ開けた空間だった。その中心に、古びた祠のようなものがぽつんと佇んでいる。
……いや、正確には壊された祠だ。
封印を施していたはずの結界の気配は薄く、無残に破られている。兄が壊したのだろう。あの人なら、躊躇なくそういうことをする。
祠の奥に、全ての視線を吸い寄せるような、異様な存在があった。
真っ黒な球体。それはまるで、空間にぽっかり空いたブラックホールだった。
「……何でしょうか、あの黒い塊」
博士が不可解そうに眉を寄せる。
「……中から人の気配がする」
私はそう答えながら、鞘から刀を抜いた。
まさか、あの中に動物にされた生徒たちがいるのだろうか。そうだとしたら、もしかしたら兄やミナトもそこに――。
『二人だけか。随分と舐められたものだね』
ねっとりと、舌で肌を撫でられるような不快な声が聞こえた。
直後、何もなかったはずの空間に突如、鷹が現れた。空の裂け目からすっと出てきたそれは、一直線に私の方へと突っ込んでくる。
「うわっ! 動物霊!?」
反応が間に合わなかった。
鋭い爪が私の体を掴み、高く上空へと舞い上がっていく。視界がみるみる地から遠ざかる。
白露院は動物霊を操ることができる。やばい、と思った瞬間だった。
シュッと風を切る音がした。
次の瞬間、私を掴んでいた鷹が矢に貫かれ、ギギ、と奇怪な声を上げながら黒い塵となって霧散した。支えを失った私の体が、宙に投げ出される。
落ちる。
重力が私の全身を真っ逆さまに引きずり落としていく。
ドン、と衝撃が走ったが、痛みはなかった。
私の体は、博士の腕にしっかりと抱きとめられていた。
「――無事でよかった」
「ひ、博士……」
博士はほっとしたようにそう言って、どこか張りつめた目付きで空を睨む。
「優眠さん、上空にも警戒してください」
博士の視線の先を追う。
その瞬間、私の全身に戦慄が走った。
――沢山いる。
鋭く光る視線が幾つも浮かんでいた。ハヤブサ、ハゲワシ、フクロウ――猛禽類の霊だ。
正面に目を戻すと、地上では、虎、クマ、狼、ヒョウ……大型の獣たちが静かにこちらを取り囲んでいた。
よく見ると、どの動物も体表が不自然に揺らいでいる。