女除霊師の密かごと
普通の動物霊と見え方が違う。不自然に思い、さっき博士が射落とした鷹に目をやると、その違和感は確信に変わった。
黒い塵が晴れていく中、その鷹の体が、制服を着た女子生徒の姿に変わっていく。意識はないようだが、その体には外傷がなく、命の気配も微かに感じ取れる。
「博士! 御霊具で祓えば人間に戻る!」
私は地面に足を付けて刀を構えた。
視界の端から今度はクマが突進してくる。
私は紙一重で避け、地を転がるようにして反転し、刀を逆手に握った。私の攻撃が霊の皮を裂き、クマもまた生徒へと姿を変える。
しかし休む暇もなく、次から次へと動物が現れる。
ハヤブサが猛スピードで旋回しながら空から急降下してくる。博士が矢を放つ。
「上空は任せてください!」
私は頷いた。
博士の弓の腕は正確だ。さすが、全国大会に出ていただけのことはある。
迫る狼を足払いで崩し、その首筋に刃を滑らせた。霊が断ち切られる音が響く。どの霊も祓えば生徒に戻る。それが唯一の希望だ。
でも、数が多すぎる。
空中の敵は博士が射落としてくれている。が、地上は私一人では追いつかない。四方八方から霊が殺到している。私は刀を振るいながら、じりじりと後退していた。
「これじゃもたない……!」
肝心の白露院の本体を祓いたいのに、見当たらない。
声がしたから近くにいる。でも四方八方が動物だらけで、どこにいるか分からない。
その時だった。
ガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャガチャ! と、硬質な何かがぶつかるような、不気味な音が闇の奥から響いてくる。私は次の獣を祓いながらそちらへと目を向けた。
「……えっ……?」
現れたのは――あの理科室にいたはずの、人体模型だった。
その腕には、ミナト――意識のなくなった猫が抱えられていた。
『湊クンを返してェェェェェ!』
泣き叫ぶ声は甲高く、機械のように震え、悲しげな響きを含んでいた。猫をぎゅっと抱きしめながら、その顔が歪む。
「あんた、理科室から動けないんじゃなかったの!?」
『そんなこと誰も言ってないワ! 人体模型だからって理科室に縛られてると思わないで頂戴! 愛は場所を超えるのヨ!』
人体模型は困惑している私をよそに、骨の間に挟んでいたらしい試験管を二本すっと取り出す。中には不気味な光を放つ、粘度の高そうな謎の液体が満ちていた。
私が何それ!? とぎょっとしているうちに、人体模型は一瞬の隙を突いて、私に迫り来る動物たちの背後から素早く回り込み、勢いよく液体をぶちまけた。
ぶしゃっ、と粘液が動物たちの背中にかかる。
液体を浴びた動物たちの体が、じゅう……と音を立てて崩れるように形を変えていく。その中から現れたのは、またしても制服を着た生徒たちの姿だった。
博士が驚いた顔でこちらを見ている。私も、声が出なかった。
『ここに白露院がいるのネ!? 湊クンを返してもらわなきゃ困るワ! フンッ! フンッ!』
鼻息を荒らげながら、人体模型はまたも新たな試験管を取り出し、躊躇なく動物たちに向けて振りかける。
黒い獣たちが崩れ落ち、元の人間の姿を取り戻していく。
よく分からない……けど、助かっている。
人体模型も、今は確かに味方のようだった。湊が囚われているからだろう。共通の目的のために、一時的でも肩を並べて戦うことができている。
……今のうちに、もっと祓って、白露院の元に。
そう決意して、一歩踏み出しかけたその時だった。
『へえ。妙な人形を使役しているんだね』
ねっとりとした不快な声が耳を掠めた。
ガッ、と、真横から、突如現れた狼が私に飛びかかってくる。
重く、冷たい牙が私の腰に食い込んでくる。
「い、た……ッ!!」