初恋が君に届くまで
「ここだな」
ガラスのプレートに【Luce ルーチェ】と刻まれたお店のドアを、丈はおもむろに開ける。
雑居ビルの中にあるのが信じられないほど、そこはクリスタルの輝きがまばゆい洗練された雰囲気のバーだった。
ダークブルーのフロアにちりばめられたクリスタルは、まるで足元に夜空が広がったよう。
天井のシャンデリアも、壁に飾られた花瓶も、どれもがキラキラと美しかった。
「すごい……、すてきですね」
「ああ」
いらっしゃいませとスタッフに声をかけられ、二人はカウンター席に着いた。
まだ早い時間帯のせいか、ほかには誰もいない。
「食事もしたいのですが」
丈がそう言うと、スタッフはメニューを差し出してにこやかにおすすめの品を説明する。
「渡辺さん、どれがいい?」
「えっと、綾瀬さんにお任せしてもいいでしょうか?」
「わかった。アルコールはワインでいいか?」
「はい」
スタッフにスラスラとオーダーする丈を、つむぎはぼんやりと見つめた。
(私、なんで綾瀬くんと二人でいるんだろう?)
衝撃の再会をしたのが月曜日。
そして今日はその週の金曜日だから、まだ5日しか経っていない。
気持ちの整理が追いつかないまま今こうして二人、オシャレなバーのカウンターに並んで座っている。
(そもそも綾瀬くん、どうしてこのバーに?)
それにガラガラの店内でカウンター席を選んだのも不思議だった。
だがつむぎの疑問は、ワインで乾杯したあとに解消する。
丈がマスターにさり気なく話を始めたのだ。
「こちらのグラスや器、飾られた花瓶も、とてもセンスがいいですね。日本ではあまり見かけないようなデザインで」
「ありがとうございます。全てイタリアの製品で揃えております」
「イタリアまで行って買いつけているのですか?」
「いえ、さすがにそこまでは。オンラインで現地のセレクトショップの品を扱っているところがありまして。皆様にもよく同じ質問をされるのですが……」
「もしかして、フィラートですか?」
するとマスターは驚いたように目を見開く。
「左様でございます。よくご存じで」
なるほど。
だから検索エンジンで【ルーチェ、フィラート】と打ち込まれるのだろう。
同じものを手に入れたいと考えたここのお客様によって。
よく見るとワイングラスも、前菜を盛り付けたプレートも、フィラートで扱っているものだった。
(確かあんまり売れ行きはよくないけれど、コンスタントに少しずつ注文が入るものだった気がする)
そう思いながら美味しいワインやカプレーゼ、プロシュート、アヒージョやカルツォーネなどを味わっていると、丈が声をひそめて話しかけてきた。
「渡辺さん、これはあくまで提案なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「このお店、なかなかいいところだと思うんだ。フィラートの商品のよい広告塔になってくれると思う。だから今ここで君がフィラートの社員だと名乗って、後日営業担当者に訪問させるのはどうだろう? これからもフィラートの商品を仕入れてくれるなら割引価格にするとなれば、フィラートにとっても販売ルートを確保できるし、双方にメリットがある」
「確かに、おっしゃる通りですね」
そういった販売戦略について、つむぎはまったく考えが及ばなかった。
(こういうところが、うちの会社に足りないところね。でも営業課じゃない私の一存で、今あれこれ話を進めるのはいけないし……)
少し考えてから、つむぎはあくまで自分がフィラートのウェブデザイナーであることだけマスターに伝えることにした。
そうすれば後日営業課の社員が実際にコンタクトを取る際に、少しは橋渡しができるだろう。
料理を食べ終えたタイミングで、つむぎはマスターに名刺を差し出した。
「フィラートの方だったんですね」
「はい。いつもわたくしどものサイトをご利用いただき、ありがとうございます。実際にこうして使われているのを拝見して、とても感激いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。日本では手に入らないすばらしい製品を扱ってくださって、ありがとうございます。おかげさまでお客様にも大変よい印象を持っていただけます。これからもぜひイタリアならではのユニークで美しい品々を届けてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
フィラートは相手の顔が見えないオンラインショッピングサイト。
ましてや営業でもない自分は、こうしてお客様から直接言葉をかけてもらえる機会はめったにない。
つむぎはマスターとの会話が嬉しくて、ついついワインを飲み過ぎてしまった。
ガラスのプレートに【Luce ルーチェ】と刻まれたお店のドアを、丈はおもむろに開ける。
雑居ビルの中にあるのが信じられないほど、そこはクリスタルの輝きがまばゆい洗練された雰囲気のバーだった。
ダークブルーのフロアにちりばめられたクリスタルは、まるで足元に夜空が広がったよう。
天井のシャンデリアも、壁に飾られた花瓶も、どれもがキラキラと美しかった。
「すごい……、すてきですね」
「ああ」
いらっしゃいませとスタッフに声をかけられ、二人はカウンター席に着いた。
まだ早い時間帯のせいか、ほかには誰もいない。
「食事もしたいのですが」
丈がそう言うと、スタッフはメニューを差し出してにこやかにおすすめの品を説明する。
「渡辺さん、どれがいい?」
「えっと、綾瀬さんにお任せしてもいいでしょうか?」
「わかった。アルコールはワインでいいか?」
「はい」
スタッフにスラスラとオーダーする丈を、つむぎはぼんやりと見つめた。
(私、なんで綾瀬くんと二人でいるんだろう?)
衝撃の再会をしたのが月曜日。
そして今日はその週の金曜日だから、まだ5日しか経っていない。
気持ちの整理が追いつかないまま今こうして二人、オシャレなバーのカウンターに並んで座っている。
(そもそも綾瀬くん、どうしてこのバーに?)
それにガラガラの店内でカウンター席を選んだのも不思議だった。
だがつむぎの疑問は、ワインで乾杯したあとに解消する。
丈がマスターにさり気なく話を始めたのだ。
「こちらのグラスや器、飾られた花瓶も、とてもセンスがいいですね。日本ではあまり見かけないようなデザインで」
「ありがとうございます。全てイタリアの製品で揃えております」
「イタリアまで行って買いつけているのですか?」
「いえ、さすがにそこまでは。オンラインで現地のセレクトショップの品を扱っているところがありまして。皆様にもよく同じ質問をされるのですが……」
「もしかして、フィラートですか?」
するとマスターは驚いたように目を見開く。
「左様でございます。よくご存じで」
なるほど。
だから検索エンジンで【ルーチェ、フィラート】と打ち込まれるのだろう。
同じものを手に入れたいと考えたここのお客様によって。
よく見るとワイングラスも、前菜を盛り付けたプレートも、フィラートで扱っているものだった。
(確かあんまり売れ行きはよくないけれど、コンスタントに少しずつ注文が入るものだった気がする)
そう思いながら美味しいワインやカプレーゼ、プロシュート、アヒージョやカルツォーネなどを味わっていると、丈が声をひそめて話しかけてきた。
「渡辺さん、これはあくまで提案なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「このお店、なかなかいいところだと思うんだ。フィラートの商品のよい広告塔になってくれると思う。だから今ここで君がフィラートの社員だと名乗って、後日営業担当者に訪問させるのはどうだろう? これからもフィラートの商品を仕入れてくれるなら割引価格にするとなれば、フィラートにとっても販売ルートを確保できるし、双方にメリットがある」
「確かに、おっしゃる通りですね」
そういった販売戦略について、つむぎはまったく考えが及ばなかった。
(こういうところが、うちの会社に足りないところね。でも営業課じゃない私の一存で、今あれこれ話を進めるのはいけないし……)
少し考えてから、つむぎはあくまで自分がフィラートのウェブデザイナーであることだけマスターに伝えることにした。
そうすれば後日営業課の社員が実際にコンタクトを取る際に、少しは橋渡しができるだろう。
料理を食べ終えたタイミングで、つむぎはマスターに名刺を差し出した。
「フィラートの方だったんですね」
「はい。いつもわたくしどものサイトをご利用いただき、ありがとうございます。実際にこうして使われているのを拝見して、とても感激いたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。日本では手に入らないすばらしい製品を扱ってくださって、ありがとうございます。おかげさまでお客様にも大変よい印象を持っていただけます。これからもぜひイタリアならではのユニークで美しい品々を届けてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
フィラートは相手の顔が見えないオンラインショッピングサイト。
ましてや営業でもない自分は、こうしてお客様から直接言葉をかけてもらえる機会はめったにない。
つむぎはマスターとの会話が嬉しくて、ついついワインを飲み過ぎてしまった。