初恋が君に届くまで
「はあ、本当に美味しいなあ。ワインもお料理も最高! しかもフィラートのお得意様だったなんて。このバー、今度は友ちゃんを連れて来よう」

つむぎはそう思いながら、ぐいぐいとグラスを飲み干す。

「それにしても、やっぱり綾瀬くんってすごいよね。さすがは青嵐高校のスター! 体育祭ではかっこいい応援団長で、陸上部では関東大会優勝! その上成績も学年1位! 普通さ、頭がよければ運動音痴のはずでしょ? おかしいよねえ。なんで? しかも今は一流企業で仕事もできるなんて、どういうこと? 天は二物も三物も与えちゃったよね。いや、待てよ? 顔よし、頭よし、運動神経よし、性格もよし。スタイルとちょっと低めの声もよし。これって、なんぶつ? いちにぃさんし……。あれ? 数えられない。まあ、いっか」

心の中で呟いてからグイッとグラスをあおると、隣から手が伸びてきてグラスを押さえられた。

「渡辺、もうそこまでな」
「はい? どうしてですか、綾瀬さん」
「それ以上飲むと酔っ払うぞ」
「いえ、私お酒は結構強いんです。記憶を失くしたこともないですし」
「どうだか……。とにかくもう帰ろう」

丈はマスターに目配せすると、財布からクレジットカードを取り出して差し出す。

「あ、私も払います」

ゴソゴソとバッグから財布を取り出そうとすると、丈がそっぽを向いた。

「いいから。かっこつけさせろ」
「え?」

つむぎは手を止めて考える。

「かっこつけさせろ? いやいや、もう既に充分かっこいいですけど。それ以上かっこよくなって、どうするつもりなのかしら。あ、いつもそう言ってるから癖で? でもせっかくかっこつけても今は周りに誰もいないのに。それにさ、そんなセリフ言わなくてもモテるでしょうに。お前がおごれーとか言っても許されそうよね。それくらいでちょうどいいんじゃない? 反則級のモテ男なんだから」

じーっと丈の横顔を見つめてそう思っていると、丈はなにやら居心地悪そうに顔を赤らめたあとボソッと呟いた。

「……バカ」

は?とつむぎは目をしばたたく。

「え、今バカっておっしゃいました? あの綾瀬くんが? やだー、なんか不良っぽい。ギャップがすごいんですけど! でも確かに高校時代の綾瀬くん、ちょいワルな一面もあったよね。体育祭で先生が決めた種目を『こんなダサイのやってられっか!』って言って全然違うのにしちゃったり。それでまたモテちゃって、もうモテループよね。無限モテモテ〜」

ガタッとカウンターチェアから立ち上がった丈が、「行くぞ」と言い残して歩き出す。

「え、そんな急に。待ってください、綾瀬さん!」

つむぎはマスターに挨拶すると、ふらふらする足取りであとを追いかけた。
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