初恋が君に届くまで
(なつかしい。けど好きな子に声をかけられないなんて、情けない男だな)

振り返ってそう思うが、再会できた今も似たような感じではないか。

(あまりに想定外だったから。現実なのかと未だに信じられない)

けれど確かに彼女なのだ。
高校時代、心の片隅で想い続けた渡辺つむぎ。

(再会できたのは、ある意味運命なのかも。このチャンスを必ずものにしてみせる)

そう思い、社員食堂にも案内してもらった。

二人でランチを食べながら、美味しそうに焼き鳥丼を頬張る笑顔が可愛くて、ついニヤけてしまった。

オフィスを案内してくれた時の彼女も、方向音痴を認めずにツンと澄ましたりと意外な一面が見られて嬉しかった。

今夜は仕事絡みとは言え、バーにまで一緒に行ったのだ。

ワインを飲んで、このままいい雰囲気になれば想いを伝えようかと迷った。

(彼女は俺のことなんか忘れているようだけど、高校の話をして思い出してもらえたら)

そう考えていると、隣に座るつむぎが小さく呟く声が聞こえてきたのだ。

「それにしても、やっぱり綾瀬くんってすごいよね。さすがは青嵐高校のスター! 体育祭ではかっこいい応援団長で、陸上部では東関東大会優勝! その上成績も学年一位! 普通さ、頭がよければ運動音痴のはずでしょ? おかしいよねえ。なんで?」

思わず目を見開いてつむぎの横顔を凝視する。

(えっ、空耳か?)

だが確かにそう聞こえてきた。

(覚えてたのか、俺のこと)

嬉しさに顔がほころぶ。
すると更につむぎは続けた。

「しかも今は一流企業で仕事もできるなんて、どういうこと? 天は二物も三物も与えちゃったよね。いや、待てよ? 顔よし、頭よし、運動神経よし、性格もよし。スタイルとちょっと低めの声もよし。これって、なんぶつ? いちにぃさんし……。あれ? 数えられない。まあ、いっか」

言い終わるとつむぎはグイッとグラスをあおった。

(これは……どういうことだ?)

並べられた褒め言葉に赤面しつつ考えを巡らせる。

どうやらつむぎは声に出しているつもりはないらしい。

酔いが回り、思っていることを口にしてしまっているという感じだった。

嬉しいが、これ以上は動揺を隠せなくなる。

それにつむぎが酔いつぶれそうなのも心配で、グラスを持つ手を押さえて止めた。

クレジットカードで支払いをすると、つむぎが「私も払います」と言って財布を取り出そうとする。
好きな女の子に金なんて出させるか。

「いいから。かっこつけさせろ」

ぶっきらぼうにそう言うと、またしてもつむぎが呟く。

「かっこつけさせろ? いやいや、もう既に充分かっこいいですけど。それ以上かっこよくなって、どうするつもりなのかしら。あ、いつもそう言ってるから癖で? でもせっかくかっこつけても今は周りに誰もいないのに。それにさ、そんなセリフ言わなくてもモテるでしょうに。お前がおごれーとか言っても許されそうよね。それくらいでちょうどいいんじゃない? 反則級のモテ男なんだから」

そして、じーっと横顔を見つめてくるではないか。

おとなしいつむぎの口から「もう既に充分かっこいい」だの「反則級のモテ男」なんて言葉が出てくるとは。

(しかもなんだ? 俺がモテたくていつもかっこつけてると思ってる?)

好かれたいのはただ一人なのに。

嬉しさと恥ずかしさともどかしさにどうにも居心地悪くなり、思わず「バカ」と呟いてしまった。

するとつむぎの呟きは更に大きくなる。

「え、今バカっておっしゃいました? あの綾瀬くんが? やだー、なんか不良っぽい。ギャップがすごいんですけど! でも確かに高校時代の綾瀬くん、ちょいワルな一面もあったよね。体育祭で先生が決めた種目を『こんなダサイのやってられっか!』って言って全然違うのにしちゃったり。それでまたモテちゃって、もうモテループよね。無限モテモテ〜」

ろれつが回らない口調が可愛らしく、しかも声が甘い。

これ以上は理性を保てそうにないと、丈はガタッと席を立ったのだった。
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