初恋が君に届くまで
「では、今日もお疲れ様。カンパーイ!」
友美が最近見つけたというワインバーに入り、二人は早速ワインで乾杯する。
アヒージョやカルパッチョ、鴨のローストや牛スネ肉の赤ワイン煮込みなどを味わいながら、友美はつむぎに顔を寄せて尋ねた。
「それで? どんな人だったの、綾瀬丈」
「実はね。高校の同級生だった」
「……え? ええー!?」
仰け反って驚く友美に、つむぎは周囲を気にしながら声をひそめる。
「友ちゃん、声が大きいよ」
「あっ、ごめん。びっくりしちゃって。それ本当なの?」
「うん、私も驚いた。でも向こうは私に気づかずに、初めましてって挨拶して。私の高校、私立のマンモス高で生徒数が多かったし、理系の綾瀬くんとは一度も同じクラスにならなかったから私のことなんて知らないと思う。名字もありふれた渡辺だし」
「そうかな? つむぎは綾瀬丈のこと知ってたのに?」
「それはだって、綾瀬くんは校内一の有名人だったもん。頭はいいしスポーツもできるし、生徒会長もやってたからモテモテで。体育祭の時は応援団長やってみんなを引っ張ってたし、リレーなんてごぼう抜きして優勝したからね。まさにスターだよ」
なーるほど!と、友美は妙に納得したように頷いた。
「どうりで今もIT業界で注目度されてるはずね。非の打ち所がない感じ? 少女漫画に出てきそうな」
「まさにそんな感じだった。先生からも好かれてたし、いつも華やかな女の子達に囲まれてて。たまに見かけると、綾瀬くんと私の間に境界線が見えるの。明暗というか、あっちはハワイでこっちはシベリア、みたいに」
友美は「あはは!」と声を上げて笑う。
「ごめん、なんか想像ついちゃって。つむぎ、廊下の端で見てたんでしょ? 住む世界が違うわーとかって」
「そうなの。御一行様が通り過ぎるまで頭を下げてね」
「ふうん。でもさ、ネクサスの担当が綾瀬丈になったってことは、これからつむぎは彼と一緒に仕事することになるじゃない? どうするの?」
どうする、とは?と、つむぎは首を傾げた。
「だから、綾瀬丈に打ち明けるの? 実は高校の同級生でしたって」
「いやいや、私からは言えないよ。綾瀬くんが気づくこともないだろうから、普通に取引先の人として接していくのかな」
「なんかもったいないね。せっかくチャンスなのに」
チャンスって?とつむぎがワイングラスを手に尋ねると、友美はズイッと顔を近づけた。
「だーかーら、もちろんお近づきになるチャンスよ。同級生でしたなんて、最高のアドバンテージじゃない」
どうやら恋愛系の話だとわかり、つむぎは苦笑いしながら首を振る。
「綾瀬くんならすてきな彼女がいるよ、きっと。もしかしたらもう結婚してるかも?」
「そんな話、つむぎの耳に入ってるの?」
「ううん。私、高校ではモブにもなれない陰キャの一人ぼっちだったから、今もつながってる子なんていないの。毎年の同窓会にも行ってないしね」
「そうなんだ、もったいなーい。楽しいよ? 同窓会って」
明るい性格の友美なら楽しめるだろう。
けれどつむぎは、行くのを想像しただけで緊張するのだ。
「私はいいの。友ちゃんとこうして二人で飲んでる方が何倍も楽しいから」
「嬉しいこと言ってくれるねえ。ほら、たんとお飲み」
「うん!」
美味しい料理と楽しいおしゃべりにワインも進み、つむぎはいつになく酔いが回り始めた。
「もう、ほんと。友ちゃんと一緒だと、ついつい飲み過ぎちゃう。えへへー」
「あらら、珍しくつむぎがヘベレケだわ」
「いつもありがとうございます! 渡辺つむぎ、友ちゃんが大好きです!」
「ちょっと、むぎってば。こんなところで愛の告白しないでよ」
ふにゃりと笑っていると、急に隣のテーブルにいた男性二人に声をかけられた。
「君達、おもしろいね。仕事の帰り?」
「そうですけど……」
友美が答えると、男性二人は身を乗り出してきた。
「俺達もなんだ。なに関係の仕事してるの? うちは経営コンサルだから、仕事のお手伝いもできるかと思って」
「あ、営業ならごめんなさい。間に合ってます」
「いやいや、仕事の話と見せかけたナンパなんだよ。どう? ちょうど2対2だし。テーブルくっつけてもいいかな?」
いそいそと男性がテーブルをくっつけるのを見ながら、つむぎは心の中で文句を言う。
「営業じゃなくてナンパ? ますますごめんなさいだよ。せっかく友ちゃんと二人で楽しく飲んでたのに。あーあ、美味しいワインの味が半減しちゃう。だいたい私、ペラペラしゃべる男の人って苦手。しかも妙に高くて大きな声でさ。250ヘルツで70デシベルくらいあるんじゃない? 男の人はね、ポツリと呟くひと言に重みを持たせるのよ。あと、相手が嫌がってることにも気づく。そういう人がいいよね」
うんうんと小さく頷いていると、急に男性達が身を引いた。
「なんか、ごめんね。お邪魔しました」
そう言ってそそくさとテーブルをもとに戻す。
「あら? 急にどうしたのかしら。でもよかった、気づいてもらえて」
つむぎが笑顔で友美に「もう少しワイン頼もうか」と言うと、友美は苦笑いしながら首を振る。
「今夜はもう終わり。さ、タクシーで帰ろ。つむぎ酔っ払ってて危ないから」
席を立つ友美に続いてつむぎも立ち上がると、思わずふらりとよろけた。
「ほら、しっかり掴まって。むぎ、自分が思ってるよりかなり酔ってるよ」
「うん、ごめんなさい」
友美の腕を借りながら店を出ると、二人でタクシーに乗り込んだ。
友美が最近見つけたというワインバーに入り、二人は早速ワインで乾杯する。
アヒージョやカルパッチョ、鴨のローストや牛スネ肉の赤ワイン煮込みなどを味わいながら、友美はつむぎに顔を寄せて尋ねた。
「それで? どんな人だったの、綾瀬丈」
「実はね。高校の同級生だった」
「……え? ええー!?」
仰け反って驚く友美に、つむぎは周囲を気にしながら声をひそめる。
「友ちゃん、声が大きいよ」
「あっ、ごめん。びっくりしちゃって。それ本当なの?」
「うん、私も驚いた。でも向こうは私に気づかずに、初めましてって挨拶して。私の高校、私立のマンモス高で生徒数が多かったし、理系の綾瀬くんとは一度も同じクラスにならなかったから私のことなんて知らないと思う。名字もありふれた渡辺だし」
「そうかな? つむぎは綾瀬丈のこと知ってたのに?」
「それはだって、綾瀬くんは校内一の有名人だったもん。頭はいいしスポーツもできるし、生徒会長もやってたからモテモテで。体育祭の時は応援団長やってみんなを引っ張ってたし、リレーなんてごぼう抜きして優勝したからね。まさにスターだよ」
なーるほど!と、友美は妙に納得したように頷いた。
「どうりで今もIT業界で注目度されてるはずね。非の打ち所がない感じ? 少女漫画に出てきそうな」
「まさにそんな感じだった。先生からも好かれてたし、いつも華やかな女の子達に囲まれてて。たまに見かけると、綾瀬くんと私の間に境界線が見えるの。明暗というか、あっちはハワイでこっちはシベリア、みたいに」
友美は「あはは!」と声を上げて笑う。
「ごめん、なんか想像ついちゃって。つむぎ、廊下の端で見てたんでしょ? 住む世界が違うわーとかって」
「そうなの。御一行様が通り過ぎるまで頭を下げてね」
「ふうん。でもさ、ネクサスの担当が綾瀬丈になったってことは、これからつむぎは彼と一緒に仕事することになるじゃない? どうするの?」
どうする、とは?と、つむぎは首を傾げた。
「だから、綾瀬丈に打ち明けるの? 実は高校の同級生でしたって」
「いやいや、私からは言えないよ。綾瀬くんが気づくこともないだろうから、普通に取引先の人として接していくのかな」
「なんかもったいないね。せっかくチャンスなのに」
チャンスって?とつむぎがワイングラスを手に尋ねると、友美はズイッと顔を近づけた。
「だーかーら、もちろんお近づきになるチャンスよ。同級生でしたなんて、最高のアドバンテージじゃない」
どうやら恋愛系の話だとわかり、つむぎは苦笑いしながら首を振る。
「綾瀬くんならすてきな彼女がいるよ、きっと。もしかしたらもう結婚してるかも?」
「そんな話、つむぎの耳に入ってるの?」
「ううん。私、高校ではモブにもなれない陰キャの一人ぼっちだったから、今もつながってる子なんていないの。毎年の同窓会にも行ってないしね」
「そうなんだ、もったいなーい。楽しいよ? 同窓会って」
明るい性格の友美なら楽しめるだろう。
けれどつむぎは、行くのを想像しただけで緊張するのだ。
「私はいいの。友ちゃんとこうして二人で飲んでる方が何倍も楽しいから」
「嬉しいこと言ってくれるねえ。ほら、たんとお飲み」
「うん!」
美味しい料理と楽しいおしゃべりにワインも進み、つむぎはいつになく酔いが回り始めた。
「もう、ほんと。友ちゃんと一緒だと、ついつい飲み過ぎちゃう。えへへー」
「あらら、珍しくつむぎがヘベレケだわ」
「いつもありがとうございます! 渡辺つむぎ、友ちゃんが大好きです!」
「ちょっと、むぎってば。こんなところで愛の告白しないでよ」
ふにゃりと笑っていると、急に隣のテーブルにいた男性二人に声をかけられた。
「君達、おもしろいね。仕事の帰り?」
「そうですけど……」
友美が答えると、男性二人は身を乗り出してきた。
「俺達もなんだ。なに関係の仕事してるの? うちは経営コンサルだから、仕事のお手伝いもできるかと思って」
「あ、営業ならごめんなさい。間に合ってます」
「いやいや、仕事の話と見せかけたナンパなんだよ。どう? ちょうど2対2だし。テーブルくっつけてもいいかな?」
いそいそと男性がテーブルをくっつけるのを見ながら、つむぎは心の中で文句を言う。
「営業じゃなくてナンパ? ますますごめんなさいだよ。せっかく友ちゃんと二人で楽しく飲んでたのに。あーあ、美味しいワインの味が半減しちゃう。だいたい私、ペラペラしゃべる男の人って苦手。しかも妙に高くて大きな声でさ。250ヘルツで70デシベルくらいあるんじゃない? 男の人はね、ポツリと呟くひと言に重みを持たせるのよ。あと、相手が嫌がってることにも気づく。そういう人がいいよね」
うんうんと小さく頷いていると、急に男性達が身を引いた。
「なんか、ごめんね。お邪魔しました」
そう言ってそそくさとテーブルをもとに戻す。
「あら? 急にどうしたのかしら。でもよかった、気づいてもらえて」
つむぎが笑顔で友美に「もう少しワイン頼もうか」と言うと、友美は苦笑いしながら首を振る。
「今夜はもう終わり。さ、タクシーで帰ろ。つむぎ酔っ払ってて危ないから」
席を立つ友美に続いてつむぎも立ち上がると、思わずふらりとよろけた。
「ほら、しっかり掴まって。むぎ、自分が思ってるよりかなり酔ってるよ」
「うん、ごめんなさい」
友美の腕を借りながら店を出ると、二人でタクシーに乗り込んだ。