初恋が君に届くまで
先につむぎのマンションの住所を運転手に告げてから、友美は走り出した車内でおもむろに切り出す。

「あのさ、つむぎ。気づいてないと思うんだけど、この際だから言っておくね」

いつにも増して真剣な表情の友美に、つむぎも重い頭をなんとか持ち上げた。

「なあに? 友ちゃん。私、ひょっとしてなにかしちゃった?」
「やっぱり自覚なしか。むぎってヘベレケに酔っ払うと、思ってることをひとり言みたいに声に出しちゃうんだよね」

たっぷり間を置いてから、つむぎは「え?」と訊き返す。

「どういうこと?」
「だから、自分では(丸確固)で思ってることが「カギ確固」になっちゃってるの。さっきもそうよ」
「さっきって?」
「ナンパしてきた二人組のこと。ぺらぺらしゃべる男は苦手だとか、男たるものポツリと呟くひと言に重みを置けとか。声のヘルツとデシベルのことまで言った時には私も思わず吹き出しそうになったけどさ」

ええー!?とつむぎは酔いが一気にさめるのを感じた。

「まさかあれ、聞こえてたの?」
「そう、あの男性達にもね。だから慌てて引き下がったのよ」
「そんな、ごめんなさい! 嫌味で言ったつもりはなくて……。確かにちょっと嫌だなと思ったけど、本人にそんなこと言うなんてそんな……」
「まあ、いいんじゃない? 実際私もうんざりしてたし。けどさ、つむぎ。これからは覚えておいた方がいいよ。これまで職場の飲み会で2回ほど同じことがあって、でも言ってることが『眠いよー、早く帰りたいよー』とか可愛いもんだったからよかったけど、今後仕事の場で飲む時は酔っ払っちゃダメよ」
「うん、わかった。ありがとう、友ちゃん」

大きく頷いてみせると、友美はようやく笑顔になる。

「よかった。でも私と一緒の時ならいいよ。可愛いんだもん、ヘベレケむぎむぎ。『私、友ちゃんのこと大好き。ずっと一緒にいてほしいなあ』とか言ってうるうる見つめてくるの。あれは一瞬、マジで恋に落ちそうだった」
「ええ!? ごめん、そんなことも口に出してたの?」
「そう。しかも小さく呟くもんだから、余計にキュンとくるのよ。もしかして、つむぎって彼氏を作ろうとしないのはそういうこと? って一瞬思った。けどそのすぐあとに『課長の漫談、長いしおもしろくないな』とか言うもんだから、これは心の声がもれてるなと思って。普段のつむぎなら絶対そんなこと言わないのに」
「うん、絶対言わない。思ってても言わない」
「いや、それが言っちゃってたからね」

ヒー!と、つむぎは今さらながらに事の重大さに身をすくめた。

「どうしよう、私もう既に失言しちゃってるよね?」
「大丈夫だよ。飲み会ではいつも私の隣に座るし、ひとり言がもれててもすごく小さい声だから。それもヘベレケになった時だけで、そもそもつむぎ、そんなに酔うこと滅多にないでしょ?」
「うん、酔って記憶を失くしたりしたこともないし」
「だから今のところは平気だよ。今夜のがこれまでで一番大きいかな。だけどこの先、私がいない時とかは気をつけなね」
「わかった、肝に銘じる。教えてくれてありがとう、友ちゃん。知らないままだと大変なことになってたと思う」
「どういたしまして。これから心置きなく飲みたい時は宅飲みにしようね」

そう言ってにっこり笑う友美に、つむぎも「うん!」と笑顔で頷いた。
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