初恋が君に届くまで
「いらっしゃいませ。二名様ですか? 奥のお座敷へどうぞ」

和服姿のスタッフに案内されて、二人は掘りごたつの和室に上がる。

「風情があっていいな。穴場だよ」
「ええ。有名なチェーン店ではなく、ご家族で経営してらっしゃるお店なんです。だしの風味でどれも美味しいですよ」
「そうか。つむぎにオーダーを任せてもいい? つむぎのおすすめを食べてみたい」
「かしこまりました」

つむぎは定番のだし巻卵や揚げ出し豆腐のほかに、ナスの煮浸しや湯葉の梅肉和え、釜炊きのひつまぶしや本日のおすすめ小鉢などを注文した。

「綾瀬くん、お酒は飲みますか? 私、免許証持って来てるので代わりに運転してもいいですよ」
「えっ、つむぎも運転するんだ。なんか意外だな」
「実家に帰った時だけですが、こう見えてゴールド免許です」
「それは想像つく。さっきのナビの仕方はただ者ではなかった」
「ありがとうございます」
「でもお酒は次の機会に。今度はつむぎと一緒に日本酒を味わいたい」

にっこり笑いかけられてつむぎはうつむく。

なるべく意識しないようにしているが、今この個室に二人きりなのだ。

しかもつむぎは今になって、締めに鴨南蛮そばをオーダーしたことに気づく。

(しまった! おそばのつゆが……。でもここのおそばは絶品だから、どうしても綾瀬くんに食べてほしいし)

眉根を寄せていると「どうかしたか?」と顔を覗き込まれた。

「いえ、なんでもございません。お茶をお注ぎいたします」

とにかく平常心を保とうと、つむぎは澄まし顔でお茶を淹れた。
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