初恋が君に届くまで
「へえ、明るくてきれいな食堂だな」

ガラス張りの大きな窓から降り注ぐ陽射しに、丈は目を細める。
ソファ席やカウンター席、テーブル席など、広々とした食堂で社員達はゆっくりとランチタイムを楽しんでいた。

「えっと、オーダーカウンターはこちらです。うどんやおそばの麺類、どんぶりもの、パスタやグラタンの洋食系、日替わり定食などに別れています。それ以外のお惣菜やデザートは中央のカウンターに並んでいるので、お好きな物をトレイに載せてください。お会計はセルフレジです。トレイを置くだけで自動計算してくれるので、決済方法を選んでお支払いをお願いします」
「わかった」

トレイを手に、つむぎはどれにしようかと考える。

(本当はお気に入りの焼き鳥丼を食べたいところだけど、綾瀬くんと一緒ならやめた方がいいよね。ここは女子らしく、サラダとミニパスタとか? あ、でもパスタをくるくるするのとか、上手にできなかったらどうしよう。うどんも、チュルッてつゆを飛ばしそうだし)

頭の中で思案していると「おすすめは?」と丈に訊かれ、咄嗟に「温泉卵の焼き鳥丼ですね」と答えてしまった。

「うまそうだな。じゃ、それにしよう。オーダーはここ?」
「こっちのこの列です」

初めての人には、どの列がどれかわかりづらいかもしれない。
そう思い、つむぎも一緒に並んだ。

「焼き鳥丼二つお願いします」

成り行きで自分も頼んでしまう。

「綾瀬さん、お味噌汁とお漬物を載せますね」
「ありがとう」

手前に並べられている小鉢とお椀をトレイに載せ、できあがったどんぶりを受け取ってからレジへと向かった。

「あ、ご一緒にサラダやプリンはいかがですか?」

クスッと聞き慣れた笑いのあと、「じゃあサラダだけ」と丈が答える。

「はい、どうぞ。ドレッシングはなにがいいですか?」
「君のおすすめで」
「うーん、私のおすすめはコブサラダドレッシングですが、綾瀬さんには似合いそうにないです。じゃあ和風しょうゆで。ストップって言ってください」
「ストップ」
「ええ? まだかけてませんよ?」
「ああ、そういうことか。ごめん」

いつものクスッが、クスクスになった。

「どの席がいいですか?」

本当は顔を見られないカウンター席に行きたいが、丈は「窓際のテーブル席で」と答える。

仕方なくつむぎは、丈と向かい合って席に着いた。

「いただきます」

手を合わせると、まずは温泉卵に箸を入れる。
トロリと黄身が溢れ出て焼き鳥に絡んだ。

(はあ、これだけでもう美味しいよね)

目を輝かせると、またしてもクスクスと笑われる。

(綾瀬くんって、こんなに笑う人だったんだ)

いつもみんなの輪の中心にいたが、どちらかと言うと周りのおしゃべりに穏やかに耳を傾けているイメージだった。
どんな話をしていたのか、遠巻きに見ていたつむぎにはわからない。

(それにしたって、今はなにがおもしろかったんだろう?)

首をひねっていると、早速焼き鳥丼を頬張った丈が「うまい!」と頷く。

「でしょう? 美味しいですよね。生わさびや山椒をかけると、これまた美味しいですよ」
「これまた? はは!」

今度はクスクスからはは!に変わった。
笑いのツボがよくわからない。

気を取り直して、つむぎも焼き鳥丼を頬張る。

(んー、美味しい!)

満面の笑みで味わっていると、丈の視線を感じた。

「えっ、なにか?」
「いや、いい顔して食べるなと思って」

初めて見た、と小さく付け加えられ、つむぎは首を傾げる。

(初めて? どういう意味だろう)

だがふた口目を食べると、またしても焼き鳥丼の美味しさにうっとりする。

結局、丈に見られるのが恥ずかしいという気持ちもどこへやら、つむぎはペロリと焼き鳥丼を平らげた。
< 8 / 91 >

この作品をシェア

pagetop