返事も溺愛もキスのあとで
私は小さい頃から高いところが苦手だったのだが、ある日、学校の帰り道、雨上がりに大きな虹が空にかかったことがあった。

その日も“たーくん”と遊ぶ約束をしていたのだが、私は帰宅すると、たーくんに公園で待ってると伝え、先に向かったのだ。

そしてより高いところから虹を見たくて、ひとりでジャングルジムに登った。思ったより登るのは簡単だった。

いつもの自分の目線よりもずっと高いところから見る景色はとても綺麗で空気も澄んでいた。

──でも案の定、登ったはいいが、気付けば下に降りれなくなってしまったのだ。



「──雛子、おまたせ」

ハッとして顔を上げると、鷹哉さんがお茶をこちらに差し出していた。

「はい」

「ありがとう」

私は鷹哉さんからお茶のペットボトルを受け取ると、隣に座った彼と同時にキャップを捻る。

木陰で少し冷えた風に心地よさを感じながら、二人で静かに喉を潤す。

「もうすぐ暮れるな」

「そうだね……」

夕日は空を茜色に染めはじめていて、エモーショナルな気持ちになってくる。

「……懐かしいな」

「私もすごく懐かしい。鷹哉さんは公園で、誰とどんな遊びをしてたの?」

「俺か?」

彼は夕日を遮るように大きな手を翳すと、公園を見渡しながら口元を緩めた。

「隣に住んでいた女の子とよく来てた。ブランコをしたり、おにごっこをしたり。俺も彼女もひとり親で、互いに母親は仕事で遅くなることが多かったから暗くなるまで遊んでたよ」

「そうなんだね」

鷹哉さんが私と同じひとり親だと初めて知る。

「小さい頃の俺は、いつも早く大人になりたいと思っていて、少し子供らしくない子供だったかもしれない」

私もひとり親だったからよくわかるが、子供ながらに母の仕事の邪魔をしてはいけないとか、できるだけいい子でいて困らせないようにしなきゃとか、もっと一緒にいたいなんて思っちゃダメなんだとか、誰に強要されたわけでもないのに物わかりのいい子を演じていたような気がする。

でも私には、たーくんがいたから。

不思議と寂しさを感じたことはなかった。
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