返事も溺愛もキスのあとで
終業後、私は雪瀬室長と納涼会とは反対方向に向かっていた。

「あの……納涼会いいんですか?」

「いいに決まってるだろう。石垣が幹事の納涼会だ。義理立てすることない」

「そうではなくて。雪瀬室長まで欠席なんて」

「俺の判断だから気にしなくていい。着いたぞ」

彼が指差した先には古民家を改装したと見られる高級寿司屋が見えた。

私の自宅からも割と近いことから気になってはいたのだが、一見さんお断りのお店であること、守が魚介類が好きではないため一度も行ったことはない。

「舞川さんに食べてもらいたいものがあるんだ」

「え、私に?」

雪瀬室長は慣れた様子で暖簾を潜ると引き戸を開ける。すぐに恰幅の良い店主が「いらっしゃいませ」と挨拶をする。

「今日は貸し切りなので、お席はどこでも大丈夫ですよ」

店主の言葉にすぐに私は隣の室長を見上げる。

「え……! 貸し切り?!」

(こ、こんな高そうなお店を……)

「ああ。その方がゆっくり話ができるだろう」

「い、いえでも……なんだか申し訳ないです」

守と姫原さんの会話から資料室に駆け込んだ私は、偶然会った室長に堪えきれず、守たちのことを話したのだ。

黙って私の話を聞いてくれた室長だったが、話の途中で休憩時間が終わってしまったため、終業後、ゆっくり話を聞くからと夕食に誘ってくれ現在に至る。
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