返事も溺愛もキスのあとで
あたしは玄関のドアノブを握ったまま、目を見開いた。

背後から聞こえてきたのは、守とあたし声──ベッドの上での嬌声だった。

「いいの? これ、僕のSNSで流しちゃうよ~」

「は? 何言ってんの?」

見れば守がスマホに、チュッとキスしながらこちらにやってくる。

「雛子のはマグロで味気なくて撮ったことなかったんだけど~由羅はさ、もう可愛すぎてさ~」

ヘラヘラ笑う守はさっきとあまり変わった様子はない。
脅すわけではなさそうで、なんなら悪気もなさそうだ。

あたしはギッと彼を睨みつけた。

「最低……っ」

「ご、ごめんね、可愛すぎてつい……おかずにしてたんだ。僕はただ、これからも僕だけの由羅でいて欲しいだけだよ。そしたら動画は流したりしないから。約束する」

守は眉を下げると、玄関先で正座し、あたしを見上げている。

(脅したり従順になったり、余計に気持ち悪い……なんなのこの男……)

あたしはドアノブから手を離すと、守を見下ろし、しばし観察する。

「幻滅した。隠し撮りとかドン引きだから」

悪気がなさそうとはいえ、守をどこまで刺激していいのかわからず発した声は、思っていた以上に低くて怒りを含んでいるのが自分でもわかった。

守があたしを見ながら、怯えたように視線を左右に揺らす。

「お、怒らないでよぉ。だってどうしても別れたくないんだよ」

鼻水をすすりながら、涙をスウェットの袖で拭いている守に、あたしは頭を抱えたくなるのを堪えながら近づく。

(まずは動画をどうにかしないと)
< 165 / 190 >

この作品をシェア

pagetop