返事も溺愛もキスのあとで


晴れ渡った夏のある日──悪い知らせは突然やってきた。

「舞川さん、雪瀬室長! 大変です!」

世間で学生たちが夏休みと呼ばれるものに入ってすぐのことだった。

彼といつものように出社し、エレベーターを降りたところで同僚の女性が慌てた様子で駆けてきた。

「一体、どうしたんだ?」

「そ、それが……舞川さんのことが……その」

「え? 私?」

わけもわからずにオフィスに入れば、目の前はFAXの海と化している。

さらにオフィスの壁にも、何百枚とFAXと同じ紙が所狭しに貼られていて、異様な雰囲気を醸し出していた。

「なにこれ……っ」

私は床に大量にばら撒かれているFAXの用紙を一枚拾い上げる。

(──っ)

そこには、太い黒のマジックで『舞川雛子はパパ活中! 雪瀬鷹哉は騙されている』と書かれており、私が知らない五十代ほどの男性とホテルに入っていく写真が貼り付けられている。
こんなこと勿論やってない。
きっと合成され、偽装されたものだ。

「他にも……匿名アカウントでSNSに同じ画像が……」

「え?!」

同僚が差し出したスマホの画面を見れば、モザイクこそかかっているものの、某大手菓子メーカーOLのパパ活事情と題して、不特定多数に向けて拡散されている。

「舞川さんの名前は、M川さんとボヤかしてありますけど……」

「……モザイクかかってるけど、知ってる人なら私ってわかりそうだよね」

なるべく気丈に振る舞おうとするが、小刻みに震えてきて、発した声はか細く掠れていた。
隣で彼が拳を握る。

「システムに詳しい人がいる。すぐに削除させる」

小さく頷くと彼が、SNSのアカウントと一緒に素早く誰かにメールを送るのが見えた。

「ふざけやがって……」

メールを送信し終えると、珍しく彼が乱暴な言葉を吐き、ぐしゃりと紙を握る。
すぐに同僚たちにゴミ袋に入れ、一か所に集めるよう指示を出した。

「鷹、哉さん……私」

後ろめたいことは何一つしていないのに、ショックで体の震えは一向に止まらない。

それに気づいたのか、彼が気遣うように私を覗き込んだ。
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