返事も溺愛もキスのあとで
雪瀬室長は車道の内側にさりげなく私をエスコートすると電信柱の灯りを頼りに歩いていく。その足取りは軽く背筋はいつもの通りピンと伸びていて、ビール七杯を飲み干したとはとても思えない。

「室長ってほんとにお酒強いんですね」

「それを言うなら舞川さんもだろう。顔色ひとつ変わらない」

「それは雪瀬室長もじゃないですか、いまから会議って言ってもいいくらい、なんかキリッとシャキッとしてますよ」

「はは、キリッとシャキッとか。舞川さんにはそんなふうに見えてるんだな」

夜風に艶やかな黒髪を揺らし、わずかにネクタイを緩めながら見せた笑顔にドキンとする。

(職場では立場上いつも難しい顔してるから……こんな風に笑うって知らなかったな)

「どうかしたか?」

「あ、雪瀬室長も笑うんだなって、当たり前なんですけど」

室長はキョトンとしてから、形の良い唇を引き上げた。

「舞川さんといると楽しいからかもしれないな」

「へ?」

今日は随分と呑みすぎたのかもしれない。彼は涼しい顔をしたまま、コンビニの前の道を指差した。

「ここの道か?」

「あ、はい」

雪瀬室長はコンビニ手前の道を裏手に回る。

「あ、そこのアパート……」

そこまで言った私は、アパート前で腕を組んで歩いている守と姫原さんに目を見開いた。
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