返事も溺愛もキスのあとで
「はぁ? カレーだっていうから早めに営業早めに切り上げて帰ってきたのにさ」

「残業したら忘れちゃって……」

「はぁ。つかえねぇ」

(いまなんて言った?)

私は、食器を片付けていた手を止めるとテレビの画面を背に立った。

「なにすんだよ、見えねぇし」

「一緒に住んでるのに今のはないんじゃない?」

「なにが?」

「だからわざと忘れたわけじゃないし、お互い働いてるんだからたまには手伝ってくれてもいいんじゃないってこと」

「なんで僕が? 実家でも母さんが家事は担当してたよ」

(でた。母さん)

守は一人っ子ということもあり、彼から家族の話が出るたびに、さぞかしご両親に大事に育てられたんだろうなと思う。

それはいいとして、私に母親と同じことを強いるのはいかがなものかとも思う。

最近、私は彼から“母さん”というワードが飛び出すたびに不快に感じて仕方ない。

「前から言ってるけど、私は守のお母さんじゃないから! それに共働きなら家事は二人で分担するのが普通なんじゃないの?」

「はぁあ。でたよ、雛子の“普通”」

「なにそれ」

「人それぞれ“普通”の基準って違うわけ。それをまるで自分が一番正しいみたいに“普通”イコール当たり前、みたいに価値観押し付けてくんな。ダルすぎ」

「な……っ」

「ほんと雛子って《《誰かさん》》と大違いだわ」

「え? 何言って……」

「あー! うるさいんだよ」

──バンッ!
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