返事も溺愛もキスのあとで


「うまい」

「お口にあってなによりです」

雪瀬室長はこの自宅であるタワマンの近くに最近できたカフェに、ブランチに行こうと誘ってくれたのだが、昨晩酔いつぶれた上にベッドを占領してしまったお詫びをかねて朝食を作ったのだ。

と言っても、室長の家にある材料で作ったので、野菜スープと目玉焼きにウインナー、トーストといった簡易な朝食だ。

「朝から雛子の手料理がたべられるなんて幸せだな」

「えぇっと……そんな手料理だなんて、大したものじゃなくてすみません」

「いや、俺は料理が苦手だから、尊敬してしまう。特にこの目玉焼きは人生で食べた中で一番うまい」

「め、目玉焼きってだれが作っても味一緒じゃないですか?」

「何言ってるんだ? この絶妙な塩加減と熱の通し方、そんじゃそこらの人には真似できないだろう。真似して作るにはおそらく俺の予想では五年はかかる」

「五年?!」

彼の生真面目だが、明らかにズレた感想に、大きな声が出てしまった。

「ああ。この目玉焼きはその価値がある」

「さすがに大袈裟です」

思わずクスっと笑えば、彼が恥ずかしそうに髪をくしゃっと握った。

「……それくらい俺にとっては嬉しいんだ。こうして雛子と付き合えて、食事を作ってもらえて……」

いつもクールな表情を崩さない彼が、僅かに頬を染めたように見え、私もつられて赤面してしまう。

こんな簡単な料理とはいえないものを、美味しいと言って喜んでもらったことなどあっただろうか。

少なくとも守からは一度も言われたことはなかった。

彼の母親同様、女の私が料理を作ることが当たり前であり、朝はパン派の私にたまには朝も和食にしてくれと注文をつけられたりもした。

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