返事も溺愛もキスのあとで
「……悪い。年甲斐もなく浮かれてて……気持ち悪いな」
「い、いえ……そんなこと思っていません」
「ならいいんだが……」
「まだ慣れないですけど、つ、付き合ってるんだなって少し、実感もわいてきましたし……」
まだ昨日の今日だが、今まで見たことがない雪瀬室長の、会社では見せない表情を目にすれば、特別な関係になったのだと思わずにはいられない。
まだまだむず痒く、心の真ん中がソワソワする。けれど、何故だか嫌じゃない。
でも──。
「焦らせるつもりはないから。ゆっくり互いのことを知っていけたらと思ってる」
「でも……本当にいいんですか?」
「なにがだ?」
客観的に見れば、私は守の浮気のせいとはいえ、昨日までは守と交際して同居までしていた。
それなのに一夜明ければ、上司である雪瀬室長と交際。恋愛経験が乏しい私は、私に想いを寄せていたと言ってくれた室長に対して、不誠実であるように思えて仕方ない。
「その……気持ちを伝えてくれた雪瀬室長に対して、私は不誠実じゃないかと」
「今の雛子に、俺に対して気持ちがないのはわかっている。そのうえで俺が強引に交際をお願いしたんだ。気にしないで欲しい」
「でも……」
「問題ない。必ず好きだと言わせて見せる」
しっかり目を合わせて伝えられた言葉に、心臓が大きく跳ねた。おそらく真っ赤になっているであろう私を横目に、彼はトーストの残りを頬張る。
「このトーストもうまいな!」
美味しそうにトーストを頬張りながら、こちらに向けられた彼の笑顔に心臓が大きく跳ねる。
(あれ、この笑顔どこかで……)
ほんのわずかだが、その笑顔に記憶の端が引っ張られたような気がした。
「雛子のお陰だな」
「そんな、トーストなんて焼いただけですよ?」
「言っただろう、俺のために雛子が焼いてくれたから、このトーストもとんでもなく美味い」
「……良かった、です」
彼の雛子呼びとストレートな言葉に、胸のドキドキは一向に収まらない。
(どうしよう……雪瀬室長といると、心臓が痛くて騒がしい)
私は胸の高鳴りを落ち着かせるように、ルイボスティーが入ったグラスに口づけた。