返事も溺愛もキスのあとで
(さてと。こういう状況の場合、なにか話す方がいいのだろうか……?)

(それとも、何も話さないほうがいいのだろうか?)

別に今まで女性経験がなかったわけではない。

まさか雛子に再会できると思ってもみなかった俺は、以前に幾人かの女性から交際を求められて応じたことはあるが、結局、心惹かれる女性に出会えることはなかった。

そして雛子が入社してきてからは、勿論彼女しか目に入らず、俺は女性たちからの告白を断るようになった。

気持ちのない交際など、互いに時間の無駄でしかないし、俺は雛子しか好きになれない、欲しくないとハッキリと気づいたから。

寝室は窓からの月明かりが仄かに差し込んでいて、とても静かだ。

(明日の引越しが終わったあと、昼飯どこがいいか聞いてみるか?)

(雛子は嫌いな食べ物がないと言ってたから……そうだな……)

(インド人が経営している本場の美味しいカレー専門店はどうだろう……)

そして雛子に向かって口を開こうとすれば、規則正しい寝息が聞こえてくる。

起き上がってそっと雛子を覗き込む。
よほど疲れていたんだろう。

瞼はピタリと閉じられていて、長いまつ毛が微かに揺れている。

昨夜から、いろんなことがあったのだから疲れていて当たり前だ。

「少し連れ回しすぎたか?」

「…………」

雛子は黄色のタオルケットに包まって、安心した表情ですやすや眠っている。

連れ回した理由が雛子が俺の恋人だと自慢したくて、実感したくてたまらないなんて、彼女が知ったらどう思うだろう。
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