返事も溺愛もキスのあとで
「け、けけ結婚前提?! そ、そんなこと嘘だろ……っ、あ、すいません、嘘ですよね。はははー、室長の冗談って面白いなぁ、アハハ……」

薄ら笑いをする守に雪瀬室長が距離を詰めると、睨み落とした。

「俺は冗談は嫌いだ」

「ひ……っ」

「お前を見ていると虫唾が走る。今度、雛子に言い寄ってみろ。存分に後悔させてやる」

「……っ」

「返事は?」

「しょ、承知致しました……」

守は視線を左右に揺らしておどおどしていたが、首元から手を離されると、逃げるように会議室から出ていった。

(行った……)

その途端に肩の力が抜けそうになる。

「大丈夫か?」

「はい……、また助けて頂いてしまって……」

「いや。構わない。もしまた石垣が何か言ってきたらすぐ連絡してくれ。連絡をくれたらすぐに行く」

「本当にすみません。迷惑ばっ……──」

言葉が遮られたと同時に、ネクタイの結び目が見えて彼の胸の中にいることに気づく。

「そんなこと言わないでくれ。俺は雛子の恋人なんだから」

そっと髪を撫でられながら、耳元で言われた言葉に心臓が高鳴る。

何か返事をと思う前に彼が私からぱっと離れた。

「始業開始、五分前だ。残念だが、続きは家でしよう」

「え……と……」

私に向かってにこりと微笑んだ彼が前を向くころには、すでにいつものクールで仕事に手厳しい、『雪のホーク』と呼ばれるにふさわしい表情に変わっていた。

私は彼の後ろについていきながら、オンとオフの彼の二面性にまだ心臓を騒がしくさせつつ、仕事モードに切り替えた。
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