返事も溺愛もキスのあとで


「うん、いいキツネ色」

帰宅してすぐに作り始めて三十分。

お鍋の中には、こんがりとあがったコロッケから、いい匂いがしている。

私は多めに作った八個のコロッケの油を切って、お皿の上に並べる。
そしてちょうど炊けたご飯を蒸らし、サラダを盛りつけてテーブルに置いた。

「できたー」

その時、タイミング良く玄関の扉が開く音がする。

(帰ってきた)

急いでお出迎えに玄関に行こうとしたが、先にリビングの扉が開いて、私は出会い頭に彼の胸元に頭をこつんとぶつけた。

「あ、ごめんなさい」

「いや、俺こそすまない。怪我はないか?」

「そんな全然、ちょっとぶつかっただけですよ」

「すまない。早く雛子の顔が見たくてな」

「えっと……あの、お帰りなさい」

顔が見たいなんて言われて、嬉しいのに彼の真っ直ぐな目が恥ずかしくて、やや噛み合わない返事になってしまった。

俯きがちの私に、彼が小さな箱を持った手をこちらに差し出す。

「これは雛子に」

「え、これ。ケーキですか?」

「ああ……駅前の人気のケーキ屋があるだろう? 閉店前で空いてたから買ってきたんだ。種類があまりなかったが……その、引越し祝い兼ねて」

一年ほど前にできたケーキ屋さんは、新進気鋭のパティシエの一号店で、いつも行列ができていて買えたことがなかった。

「一度食べてみたかったんです! すっごく嬉しいです。ありがとうございます」

「いや。俺こそ夕食を作ってくれてありがとう。コロッケだな」

「はい、雪瀬室長、揚げ物が食べたいって仰ってたので」

「今日も雛子の手料理が食べられるなんて、俺は幸せ者だ」

室長に真っ直ぐに見つめられて、恋に不慣れな心臓がまたひとつ跳ねる。

「あの、ちょうどコロッケ揚げたてなので、すぐお味噌汁もあたためますね」

「ああ、ありがとう。手を洗ってくるよ」
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