返事も溺愛もキスのあとで
「どうしたんですか?」

「あ、いや……実はその太りやすいのを思い出してな」

「そうなんですか? じゃあ、これからはカロリー控えめの食事を考えますね」

「いや気にしないでくれ。雛子の手料理はこれからも腹いっぱい食べたいから、体重が気になってきたら夜は走りに行けばいい」

そう言って、大きな口で豪快に食べる姿は気持ちいい。

そしてふと先ほどの彼の『太りやすい』という言葉を反芻すれば、幼い頃に隣に住んでいたある男の子のことを思い出す。

「走りに行く必要ないですよ」

「ん?」

「見た目なんて関係ないです。太ってても痩せてても雪瀬室長には変わりないですから」

「──っ」

何か変なことでも言っただろうか?

雪瀬室長が大きく目を見開いてから、静かに箸を置く。そしてじっと見つめられて、心臓が駆け足になってくる。

「あの、室長?」

「今の話だが、でもどちらかと言えば痩せているほうがいいだろう? 恋人ならなおさらだ」

私はすぐに首を左右に振った。

「いえ、本当に私は見た目なんて気になりません。実は私の初恋の男の子、少しふくよかな男の子だったんです」

「え?」

「私の隣の家に住んでたんですけど……よく私がホットケーキミックスで作ったマフィンやクッキーをおいしいって食べてくれて」

「……」

「きっと子供が作ったお菓子だったから、そんなに美味しいってわけでもなかったと思うんですけど、『ひなちゃんのお菓子おいしい』って満面の笑顔で食べてくれて……」

当時、私は八歳だったから二つ年上の『たーくん』は十歳だった。

互いに母親しかおらず、隣同士に住んでいた私たちは放課後よく遊ぶようになった。

いつも優しくて、困ったことがあればいつも親身になって話を聞いてくれた。

たーくんがいたから、母がいなくても寂しくなかった。

(バレンタインに手作りチョコと手紙渡したっけ)

(結局、そのあと引っ越したから返事聞けなかったけど……)

それでも、たーくんとのことは、私にとって大事な初恋の思い出だ。
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