返事も溺愛もキスのあとで
私はそれだけ答えると、化粧ポーチから素早く口紅を取り出す。

何か嫌なことを言われる前に、ここから立ち去りたい。もうこれ以上、彼女とは少しの関わりも持ちたくない。

「午後から企画会議ですね~」

「そうね」

「あたし、今回の企画すっごく自信あるんですぅ」

「そうなんだ」

私は彼女がラメの入った派手なピンクの口紅を塗るのを見ながら、さっと自分のお化粧を直すと、化粧ポーチのチャックを閉めた。

「じゃあ、お先に」

彼女に背を向けて歩き出そうとすれば、甘ったるい声が私を引き留める。

「雛子先輩~」

「なに?」

顔だけ振り返れば、姫原さんが口角をあげている。

「前、あたしが言ったこと覚えてます?」

「なんのこと?」

「──《《全部奪う》》って話ですよ」

彼女は私の前に立つと、鼻で笑う。

「真面目で一生懸命な雛子先輩は、結局、可哀そうなんです」

「何、言ってるの?」

「まぁ、会議で大恥かかないようにせいぜい頑張ってくださいね」

訝し気な顔をした私をあざ笑うかのように、唇の端をあげた姫原さんは、わざと私に肩をぶつけてからトイレを後にした。

(なんなの……一体……?!)


やけに自信ありげな姫原さんの企画がどんなものかわからないが、絶対に負けたくない。

私はきゅっと唇を結ぶとオフィスに戻り、会議に出す企画書の準備を整えた。
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