返事も溺愛もキスのあとで
「いまぁ、ちょうど下で石垣さんに会って一緒にきたんです~、朝から爽やかでかっこいいですよね~」

「私に言われても、困るんだけど……」

「え〜ん、朝から雛子さんそっけなぁい」

彼女の名前は姫原由羅(ひめばらゆら)24歳。

半年前に転勤でやってきた、入社二年目の私の後輩だ。身長155センチと小柄の身体に、少し垂れた大きな目にゆるくパーマのかかった長い髪。ピンクにルージュを塗った唇に手元はリボンとパールのついたネイルが光っている。

社内では絵本から飛び出してきたような、お姫様のような愛らしさから一部の営業から“姫ちゃん”と可愛がられている。

彼女は赴任してきてから、一時期、守の営業アシスタントを兼任していたのだが、守に気があるのかしょっちゅうこういったことを私に話しかけてきて、心底迷惑している。

「ね、内緒なんですけど~、今日の納涼会のあと石垣さんと抜け出して飲みにいくんです~」

「──え?」

(守と?)

思わず突いて出た声に、姫原さんが不敵な笑みを浮かべる。

「なんか〜、昨日やっと彼女が別れてくれたらしいですよぉ」

(!!)

思っても見ない姫原さんの言葉に一瞬フリーズする。

(やっとって、どういうこと……?)

(昨日、喧嘩はしたけど別れてなんか……)

自信に満ち溢れた彼女を見れば、とても嘘をついているとも思えず、心臓がどくどくと早くなって嫌な音を立て始める。

(姫原さんの悪ふざけよね……お昼休憩にLINEして守に聞いてみよう)

私はなんとか平静を装うと、「そうなんだね」とだけ返事をしてパソコンに向かった。

< 9 / 136 >

この作品をシェア

pagetop