返事も溺愛もキスのあとで
「う、疑うのやめてもらえませんか!あたし、嘘なんかついてませんから。前に行ったイタリアンで、ポルチーニのパスタが美味しかったから思いついたんです!」
「じゃあそこの店の名前を教えてくれ。大体の場所でもいい」
「……っ、随分前なので忘れました」
「店の名前も場所もわからないが、随分前に食べたポルチーニの味だけは覚えているとは驚きだな。そんなことあるのか?」
「な……っ」
周りの皆が姫原さんを見ながら、ヒソヒソと何かを話し出す。
「ちょっと! ヒソヒソしないで! アンタたちが知らないだけで、由羅は記憶力抜群なんだから」
「それなのに、店の名前も大体の場所すらわからないとはな。もういい」
「……っ」
羞恥心からだろうか。彼女が肩を震わせると耳まで赤くなる。
「では今度は舞川さんに聞こう。ポルチーニ茸を選んだ理由を教えてくれ」
私は話の流れから彼の言葉の意図に気づき、ハッとする。
そっと拳を握るとぐっと顔を上げた。
「私は前回のトリュフ企画で、雪瀬室長から原価のことを指摘されました。同じように高級感と目新しさがあり、さらにトリュフよりも十分の一の原価で仕入れられる乾燥ポルチーニに目をつけました」
話しながら、私は本会議用に用意していた原価についての資料をプロジェクターに映し出す。
「また駅近くのお寿司屋さんで、ポルチーニ茸の茶碗蒸しを食べる機会があり、企画の参考にしました。はじめは岩塩ではなく、出汁風味のパウダー状のものを考えておりました。ただポテトチップスを波型で想定したところ、ポルチーニとアルプス岩塩の組み合わせにする方が、味が引き締まり、相性が良いと考えました。今回のメインターゲットが、お酒を嗜む20代から40代ですので、塩味のある商品の方が認知度も人気も高く、またおつまみとしての訴求力もより高まるのではと考えております」
話し終えれば、周りから拍手がわき起こる。
同じく拍手をしながら、彼が満足げに形の良い唇を持ち上げた。
「──どちらが考案した企画か、一目瞭然だな」