因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

第11話 偽りの聖女は悪役令嬢?

 入浴を済ませてからは自室に戻り、夕刻になると食堂に呼ばれてカインと同じテーブルで食事をする。
 カインとは差し障りのない世間話をして、食事が終わるとまた自室に戻る。
 きっとこの先も自由に外へは出られない監禁生活になるだろうが、エリーゼの心は落ち着いていた。ベッドの上で仰向けになると真っ白な天井を見つめる。

(アゼルが行動を起こすまで、おそらく数日……)

 今のエリーゼに不安や危機感がないのは、常に心にアゼルの存在があるから。
 エリーゼがデヴィール国に帰らなければアゼルは必ず迎えに来る。アゼルの溺愛から逃げてきたはずが、今はアゼルの迎えを待っている自分を笑うしかない。
 結局はアゼルから逃れられない運命だと思い知らされる。

 そのまま夜になり、就寝時間となったので白いネグリジェに着替えて一人でベッドに入る。
 エリーゼと恋仲になりたいはずのカインは夜這いにも来ないし、夜伽の強要もしてこない。それは逆に助かるが、隣に誰もいない毛布の中は冷たくて寂しい。アゼルがいれば抱きしめてくれるのに、温もりを抱き返せない両腕が行き場を失う。

(……だめ、眠れない!!)

 一人になると心も体もアゼルを求めてしまう。エリーゼは溺愛の呪いを振り払うように頭を振ってから起き上がると、出入り口のドアを開けて廊下へと出る。
 壁に掛けられた燭台が通路の先まで照らしているが、静寂と暗闇しかない真夜中の廊下はやはり少し怖い。
 エリーゼはいくつもの階段を上り続けて、とにかく上を目指した。そして城の屋上へと出られるドアの前に辿り着いた。
 意外にも見張り番はいなくてドアも施錠されていない。ドアを開けると簡単に屋上に出れた。

(わぁ、満月……)

 春の夜は少し肌寒いが、空を仰いで満月の光を全身に浴びると邪念が浄化されていくような気がする。照明はないが、月明かりによって屋上の視界は明るい。
 ふと視線を満月の下にずらすと、前方に二人の人影が見える。

(あれは……カイン様?)

 逆光で見え辛いが、一人はカインで、もう一人は髪の長い女性。二人の横顔のシルエットが距離を縮めていくと重なり合う。それは紛れもなくキスシーンであった。
 エリーゼは両手で口を覆って驚きの声を殺した。そして音を立てないように息をひそめながら後方に下がる。幸い、キス中の二人はエリーゼの事に気付いていない。
 屋上のドアを開けて再び城内に入ると、今度は全力で階段を駆け下りていく。

(カイン様には恋人がいる……という事は……)

 エリーゼは息を切らしながらも頭の中で状況を整理しようとする。
 心臓を激しく揺らすのは、失望や落胆などのショックとは違う衝撃によるもの。エリーゼの呪われた魂は、今やアゼルの愛にしか悦びを感じない。
 しかし今、衝撃の事実を知ってしまった。

(私はカイン様の浮気相手ってこと!?)

 あの女性から見ればエリーゼは確実に悪役令嬢だ。このままではカインとの溺愛ルートどころか悪役令嬢ルートを進んでしまう。
 そう考えた時にエリーゼの心は決まった。

(同じ悪役になるならアゼルの側がいい。悪堕ちでも闇堕ちでも、聖女ではなく悪女になっても構わない)

 こうなったらアゼルと共に世界征服ルートへ進むのも悪くない。そこまでの覚悟を決めた途端に吹っ切れたように心が軽くなった。

 自室に辿り着いたエリーゼは窓の前に立つと、さっきよりも冴えてしまった目を閉じる。祈りのポーズで両手を組むと、遠いデヴィール国にいるアゼルに心を飛ばす。

(アゼル……私は絶対にあなたの元へ帰る。愛してるから……)

 ツンデレなエリーゼの心の中は、この時だけは素直にアゼルへの愛を認めていた。
 満月の光を浴びた効果なのか、純愛を胸に抱いたエリーゼの祈りの姿は聖女らしい美しさと神々しさを纏っていた。

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