因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 レミアルの刀を受け止めて両手が塞がっているカインの腰に手を回して抱きつくが、当然ながら何も起こらない。

「エリーゼ様、どうしたの!? 早く強化の能力を使って!」
「カイン様、ごめんなさい。能力は使えないの」

 エリーゼがカインの顔を見上げると、劣勢とは別の意味で口元を歪めている。彼の色を宿さない銀色の瞳は凍てつくように冷たい。
 エリーゼが危機を感じるよりも先にレミアルがそれに気付いた。
 優勢だったレミアルはカインの木刀の力に急激に押されて、体ごと後方に弾き飛ばされた。地面に尻餅をついたレミアルは、片手で額の汗を拭いながら前方のカインを弱々しく見上げる。

「さすがですね、カイン様。私の負けです」

 すかさず審判役が前に出てきて片手を上げる。その顔はどこかバツが悪そうで堂々とはしていない。

「勝者、カイン様!!」

 エリーゼはカインに抱きついたままで呆然とレミアルの姿を見ている。
 聖女の能力なんて発動していない。おそらくレミアルは能力が発動したかのように演技して、わざと負けた。
 しかし勝者のカインは喜ぶどころか顔を歪めて明らかに怒気を滲ませる。レミアルの演技など見抜いてはいるが、その矛先はエリーゼに向けられた。
 抱きついていたエリーゼを突き飛ばす勢いで強引に引き離す。エリーゼはバランスを崩して倒れそうになるが、カインは手を差しのべない。

「なぜ能力を使わなかったんだよ!」
「使わないんじゃない、使えないのよ……!」
「これが戦場なら僕は死んでるぞ。自分から結婚を求めてきたくせに僕を愛してないのか!?」

 カインはエリーゼの話を聞かない上に、わざと能力を使わなかったと勘違いしている。レミアルは、密かな協力関係にあるエリーゼのためを思って演技をしたが裏目に出た。
 このカインの激情から察するにエリーゼの能力の有無は関係ない。何事も思い通りにならなければ気が済まないだけだった。

(カイン様を愛せるはずない。私はカイン様の浮気相手になりたくない。それに私はアゼルを……)

 エリーゼが口を噤んでいると、落ち着きを取り戻したカインが手を伸ばして正面から優しく抱きしめてきた。

「あぁ、ごめんね、エリーゼ様。愛してるよ。少しずつでも僕を愛してくれたら嬉しいな」

 もう、そんな優しい抱擁にも甘い言葉にも騙されない。エリーゼは必ずカインの偽りの溺愛から逃れると心に誓った。
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