因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
妃候補からメイドの扱いに変わった日からエリーゼの生活は一変した。
寝泊まりする部屋は城の裏側の地下牢の近くにある小さな物置小屋に移動させられた。室内にはベッドがあるだけで隙間風も吹いていて常に寒い。
だが、そんな暮らしにも慣れているのでエリーゼは苦痛に思わない。メイド服に着替えて小屋の外に出ると、中庭にメイド仲間たちの姿があった。
「おはよう。今日も頑張ろうね」
エリーゼが笑顔で挨拶をしても、メイドたちはエリーゼを避けるようにして無言で立ち去っていく。あんなに仲良くなったのに、今では会話も交わしてくれない。
(まぁ、仕方ないわよね……)
カインと、その婚約者に嫌われているエリーゼに関わりたくない気持ちは分かる。特に落ち込む事はなく、掃除をするために水を張ったバケツを持って城のエントランスに入る。
壁際にバケツを置いてモップを取りに行こうとすると、どこからかセレンが近寄ってきてバケツを蹴って倒した。
「やだ、こんな所にバケツなんか置いて! 床が水浸しじゃない!」
セレンはわざとらしく声を張り上げるが、壁際に置いたバケツを不注意で蹴り飛ばすはずがない。これは嫌がらせだとエリーゼは分かっている。だから反論しない。
「床の掃除しといてよ。あと地下牢もね。終わるまで食事はあげないから」
使用していない地下牢の掃除なんて不必要なはずだが、一人で掃除したら一日かかっても終わらない。嫌がらせなんて苦痛ではないが、このままでは飢え死にするかもしれない。
そう思った時、エリーゼはアゼルとの食事風景を思い出した。あの時のアゼルの表情と言葉が鮮明に意識の中で再生される。
『エリーゼは家でステーキ肉を食べた事がないのか』
そう言ってエリーゼを哀れむように、慈しむように見ていたアゼルの赤い瞳が懐かしい。いや、恋しいのかもしれない。
そう気付いた瞬間に、強気だったエリーゼの心と瞳に熱いものが込み上げてくる。
(アゼル……会いたい……)
気付けば、エリーゼの青い瞳から次々と涙の雫が零れ落ちて床に落ちていく。辛いとか悲しいとか悔しいとかの涙ではない。エリーゼは『寂しい』という耐えきれない感情に襲われて心が負けてしまった。
その時、セレンの後方からカインが歩み寄ってきた。
「セレン、こんな所に……あれ? エリーゼ様、なんで泣いてるの?」
「カイン様、何でもないわ。お姉様は慣れない仕事で失敗しただけよ」
「ふぅん、メイドも大変だね。それよりも朝食を食べに行こうよ。今日はいい天気だから中庭でさ」
カインはエリーゼに対して嫌がらせはしないものの、全く興味を示さなくなった。元々、聖女の能力にしか興味がないのだから当然であった。
カインはセレンの肩を抱きながら一緒に歩いて城の中へと入っていく。
エントランスに取り残されたエリーゼは、床に倒れたバケツを見つめながら唇を噛みしめる。同時にメイド服のスカートをぎゅっと両手で握りしめる。
(どうして私はアゼルから逃れようなんて思ったの……)
世界のために、なんて考えは捨ててしまえば良かった。エリーゼは『自分が』幸せになるにはアゼルが必要なのだとようやく気付いた。それが呪いの効果であるかなんて関係ない。思うままに求めるままに生きていきたい。そう決意した。
(アゼルのためなら、私は世界征服にだって手を貸す)
ようやく出せた、生きることの答え。吹っ切れた思いを胸に抱くと気持ちは楽になった。その瞳に最強の聖女として生きた前世の力強さが蘇る。
寝泊まりする部屋は城の裏側の地下牢の近くにある小さな物置小屋に移動させられた。室内にはベッドがあるだけで隙間風も吹いていて常に寒い。
だが、そんな暮らしにも慣れているのでエリーゼは苦痛に思わない。メイド服に着替えて小屋の外に出ると、中庭にメイド仲間たちの姿があった。
「おはよう。今日も頑張ろうね」
エリーゼが笑顔で挨拶をしても、メイドたちはエリーゼを避けるようにして無言で立ち去っていく。あんなに仲良くなったのに、今では会話も交わしてくれない。
(まぁ、仕方ないわよね……)
カインと、その婚約者に嫌われているエリーゼに関わりたくない気持ちは分かる。特に落ち込む事はなく、掃除をするために水を張ったバケツを持って城のエントランスに入る。
壁際にバケツを置いてモップを取りに行こうとすると、どこからかセレンが近寄ってきてバケツを蹴って倒した。
「やだ、こんな所にバケツなんか置いて! 床が水浸しじゃない!」
セレンはわざとらしく声を張り上げるが、壁際に置いたバケツを不注意で蹴り飛ばすはずがない。これは嫌がらせだとエリーゼは分かっている。だから反論しない。
「床の掃除しといてよ。あと地下牢もね。終わるまで食事はあげないから」
使用していない地下牢の掃除なんて不必要なはずだが、一人で掃除したら一日かかっても終わらない。嫌がらせなんて苦痛ではないが、このままでは飢え死にするかもしれない。
そう思った時、エリーゼはアゼルとの食事風景を思い出した。あの時のアゼルの表情と言葉が鮮明に意識の中で再生される。
『エリーゼは家でステーキ肉を食べた事がないのか』
そう言ってエリーゼを哀れむように、慈しむように見ていたアゼルの赤い瞳が懐かしい。いや、恋しいのかもしれない。
そう気付いた瞬間に、強気だったエリーゼの心と瞳に熱いものが込み上げてくる。
(アゼル……会いたい……)
気付けば、エリーゼの青い瞳から次々と涙の雫が零れ落ちて床に落ちていく。辛いとか悲しいとか悔しいとかの涙ではない。エリーゼは『寂しい』という耐えきれない感情に襲われて心が負けてしまった。
その時、セレンの後方からカインが歩み寄ってきた。
「セレン、こんな所に……あれ? エリーゼ様、なんで泣いてるの?」
「カイン様、何でもないわ。お姉様は慣れない仕事で失敗しただけよ」
「ふぅん、メイドも大変だね。それよりも朝食を食べに行こうよ。今日はいい天気だから中庭でさ」
カインはエリーゼに対して嫌がらせはしないものの、全く興味を示さなくなった。元々、聖女の能力にしか興味がないのだから当然であった。
カインはセレンの肩を抱きながら一緒に歩いて城の中へと入っていく。
エントランスに取り残されたエリーゼは、床に倒れたバケツを見つめながら唇を噛みしめる。同時にメイド服のスカートをぎゅっと両手で握りしめる。
(どうして私はアゼルから逃れようなんて思ったの……)
世界のために、なんて考えは捨ててしまえば良かった。エリーゼは『自分が』幸せになるにはアゼルが必要なのだとようやく気付いた。それが呪いの効果であるかなんて関係ない。思うままに求めるままに生きていきたい。そう決意した。
(アゼルのためなら、私は世界征服にだって手を貸す)
ようやく出せた、生きることの答え。吹っ切れた思いを胸に抱くと気持ちは楽になった。その瞳に最強の聖女として生きた前世の力強さが蘇る。