毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~
 口付けの名残である紫の愛を口の端に伝わせて、センティはリィラの体を抱きしめる。

(なんで……そんなに優しく……)

 リィラは戸惑う。この魔物にとって自分は餌でしかないのに、なんでそんなに愛しさを込めて抱きしめるのだろうか。

「リィラ。タダで餌になれとは言わねえよ。可能な限り望みは叶えてやるから言え」

 餌になる対価という事だろうか。魔物のくせに律儀だ。毒と思考能力と体の自由を奪われたリィラには、その意図を読み取る事なんてできない。
 侵されて荒れた口を懸命に開いて、せめてもの願望を言葉に出す。

「センティを……返して……センティを名乗らないで……」

 霞んだ意識の中でも、魔物への憎しみだけは尽きない。そんな願望は叶えられないとは分かっていても、これ以上の望みはない。

「……いいだろう。今後はセンティの人格で生きてやる。名前は……そうだな、ゼンティと名乗る」

 少し前まで貪りついていた魔物とは思えないほどに優しい口調でセンティ……いや、ゼンティは答えた。

「じゃあ、リィラちゃん。今後もよろしくね。おやすみ」

 口調と微笑みはセンティそのものだが、これは魔物のゼンティが王子センティの人格を真似ているにすぎない。

 死んだセンティはもう戻らない。姿も声も記憶すらも全てがセンティなのに、魔物に成り果ててしまった事実は変わらない。
 そして……ゼンティとなってしまった魔物にリィラが惹かれてしまう事実も変わらないのであった。

 愛しさと悔しさを胸に、リィラは獣魔の王・ゼンティの胸に抱かれたまま意識を手放した。
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