毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~
 リィラが一人で馬車の中で待つこと10分もしないくらいで、ゼンティが戻ってきた。
 ゼンティは馬車に乗り込むとリィラの隣に座った。泣き続けていたリィラとは対照的にゼンティは清々しい顔をしている。

「ゼンティ……何してたの?」
「うん、ちょっとね。野暮用」

 リィラは泣き止んではいたものの、不満そうに口を尖らせている。
 馬車が動き出すと、横のゼンティの肩にコツンと顔を乗せて寄りかかった。

「……私から離れないで」

 今までリィラが拗ねたり甘えたりした事なんて一度もない。ゼンティは思わず赤の瞳をいっぱいに見開いた。

「あ、ごめんね、そんなに待たせた? でも10分くらいだよね?」
「……お願い。私を一人にしないで」

 リィラの頬に紫の涙が伝っていく。家族も故郷も失ったリィラにはもう何もない。ただ唯一、魔物に成り果てた愛しい人が隣にいるだけ。

 それでもリィラはゼンティだけは失いたくない。彼を愛する事でしか生きる価値を見出せない。

 里で一人で生きて来たリィラは、この時初めて『寂しい』という感情をゼンティに伝えた。

「当然だよ。リィラちゃんの願いは叶える」

 そう言ってリィラの肩を抱くゼンティに愛は見えない。それは『願いを叶える』という約束を果たすためだけの行為にすぎない。

 もしゼンティに僅かでも愛があるのなら、それは体の方のセンティが持つ潜在意識が干渉しているだけ。
 それならば、リィラもゼンティの願いを叶えて生きる事が自分の存在価値だと思った。

「なら、ゼンティの願いは何?」

 それはきっと、全ての野生の獣魔が人の体を入手してベスティア王国に移住する事だろう。

 獣魔が食うのは人間。その願いに賛同し手助けをするのなら、リィラ自身も魔物同然に堕ちてしまうという恐怖はある。
 だがゼンティの口から語られた『願い』とは、予想外の内容だった。

「復讐だよ」

 リィラはその時、ゼンティの言う『復讐』の意味までは分からなかった。
 その続きを問う間もなく、泣き疲れたリィラはゼンティの肩を借りて眠りに落ちてしまった。
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