毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~
 気付けばソファに押し倒されていたリィラは、目を閉じてゼンティに身を任せていた。
 ……その時。

「ぴゃん!」

 聞いた事もない小動物の甲高い鳴き声が聞こえてきた。驚いたリィラは閉じていた瞼を一気に開く。
 同時に、唇は重ねたままの状態でゼンティの赤い瞳と目が合う。リィラが体を起こそうとしたので、仕方なくゼンティは口付けを終わらせた。

「今の鳴き声……なに?」

 リィラがソファに両足を下ろして座ると、その膝の上に小さな黒い動物がピョンと飛び乗った。

「ヒメちゃん!? ヒメちゃんの鳴き声なの?」
「ぴゃん!」
「可愛い……」

 ヒメの鳴き声を初めて聞いたリィラは、その可愛さに思わず頬が緩んでしまう。
 子犬のようにフワフワとしたヒメの背中の黒毛を撫でながら、ふと正面を向くと、そこにはいつの間にかアレンが立っていた。

「アレンさん? いつの間に……」
「……ゼンティ様。準備は整いました。いつでも出発できます」

 アレンは普段の黒いスーツではなく、簡易的な銀の鎧を装備している。まさに近衛兵の出で立ちだ。
 ゼンティは満足そうに口元を歪めて笑うとソファから立ち上がった。

「よし。全員揃ったし、さっそく出発するよ!」
「……え!?」

 そんなゼンティを見上げてリィラは戸惑う。リィラの膝の上にはヒメが乗っているので立ち上がれない。

「ゼンティ、ちょっと待って。今から行くの? アレンさんとヒメちゃんも一緒に?」
「うん、そうだよ。ヒメはアレンから離れたくないんだって。あはは、僕たちみたいだよね!」

 問題はそこではない。まるでいつもの散歩に行くような軽いノリでアディール王国に乗り込む気でいるのだ。大胆不敵すぎる。

「作戦とか立てないの!? 私はどうすれば……」
「別に大丈夫でしょ。リィラちゃんは僕に話を合わせてくれればいいよ」

 ゼンティの自信はどこからくるのか。確かにゼンティの体は王子そのものだし、王子の記憶も所有している。完璧に王子になりすませる。

 アディール王国ではアレンは死んだ事になっているが、実は生きていたと言えば誰も疑わないだろう。ヒメに関しては普通の子犬にしか見えない。

 しかし、これからゼンティが行うのは復讐であり侵略行為。それらが何をもって達成となるのか……リィラには想像もできない。
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