毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~
 その階段の下から話し声と足音が聞こえてきたので、リィラは反射的に引き返して壁の死角に隠れた。

 やがて階段を登って地上に出てきたのは、真っ白なドレス姿のレンティと、黒衣の見知らぬ男性だった。

(レンティさんと……あの人は誰だろう?)

 壁に隠れながら様子を見ていると、レンティは男性と別れてリィラとは逆方向へと歩いていく。
 男性の方はリィラの方へと歩いてくるので、リィラは急いで引き返そうと思った……が。

「ぴゃん!」

 ヒメがリィラの腕の中から飛び降りて男性の方へと駆けていく。

「あ、ひ、ヒメちゃんっ!!」

 慌ててリィラも飛び出していくが、ヒメは男性の足に飛びつくようにして戯れている。
 男性は驚いて足元のヒメを見ていたが、やがて前方に駆け寄ってきたリィラの姿に気付くと顔を上げた。

「あぁ~ビックリした。あなたが飼ってる子犬ですか? 可愛いですねぇ」

 男性はニコニコと愛想のいい笑顔を向けてくる。歳は20代くらいで、長い黒髪を後ろで結んでいる。
 服装は、医者が着る白衣を真っ黒に染めたような黒衣。黒髪と黒の瞳と黒衣で真っ黒だ。
 何者なのかは知らないが、リィラはとりあえず頭を下げて挨拶をする。

「初めまして、私はリィラです。センティの婚約者……です」

(婚約者でいいんだよね……?)

 リィラは名乗りながら不安になった。今の自分の肩書きが分からない。結婚相手と言われたので、婚約者と同じ事だろうと思った。
 本当はすでにゼンティと結婚しているが、まさか今さら婚約者を名乗る事になろうとは思わなかった。
 すると男性は驚きながらも笑顔は絶やさない。

「あぁ~! リィラ様ですね、噂は聞いてます。僕は研究者で開発者のドックと申します」
「何の研究ですか?」
「それは秘密です」

 ドックは人差し指を立てて『内緒』のポーズをしながらウインクした。地下から出てきた割には明るい性格らしい。
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