毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~
 いつの間にかレンティは手に短剣を握っていて、その刃をリィラに向けていた。

「ねぇ、リィラさん。記憶喪失との事ですので、あなたが毒の種族なのかを確かめさせてくださいませ」
「え……!?」

 身の危険を感じたリィラは後ずさるが、レンティの瞳の狂気は本物だと見て分かる。
 すでにドックに毒の種族だと見抜かれた事で、同じ研究者であるレンティにも見抜かれるのは当然の事だった。

「ご心配なく。少し傷付けて血の色を確かめるだけですわ」

 リィラは首を横に振って後ろへ下がるが、何重にも施錠された扉の地下室では逃げ場などない。
 傷付く事など怖くはない。だが毒の種族だと知られれば、それを利用される。魔物を大量に殺す手段として。

「協力して頂きたいのですわ。もし毒の種族であっても秘密にしますし、致死量の血は頂きませんのでご安心なさいませ」

 骨からでは猛毒の製造は上手くいかず、レンティは何としててでも毒の種族の『血』を手に入れたい。
 レンティの計画に反対するセンティは邪魔なだけ。レンティはリィラの秘密を握る事で協力させて味方につける魂胆で、つまり脅迫だった。

(いや……ゼンティ!!)

 リィラは心でその名を叫ぶ。それは、ここでは決して口に出して叫ぶ事のできない名前。偽りの王子『センティ』ではなく、獣魔の王『ゼンティ』の名前なのだから。

 その時、研究室の出入り口の扉が勢いよく開いて、その大きな音が地下室に響いた。
 わざとらしく豪快に扉を開けたのは、リィラが心で叫んだ名の人物だった。

「へぇ……ここが研究室。陰湿だね」

 ゼンティはいつもの笑顔で感心したように部屋を見回しながら呟いた。
 リィラは驚きのあまり声が出ない。代わりにレンティが驚きに声を上げる。

「お兄様!? どうやって、ここに……!?」
「ん? 別に普通に入れたよ」

 厳重な扉の施錠などゼンティにとっては問題ではなかった。彼は魔物、獣魔の王なのだから。
< 69 / 97 >

この作品をシェア

pagetop