毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~
 まだ息絶えてはいないドックを、リィラは助けたいと願う。彼は悪い人ではない。それは普段の彼との会話だけでも分かっていた。

「……分かった。リィラちゃんの願いだからね」

 魔物を毒殺するための毒を製造していたドックを助ける考えなんてゼンティにはない。
 それでも、今にも泣き出しそうなリィラの懇願なら必ず叶える。それがリィラに対するゼンティの愛だった。

 だが、いくらゼンティでも致死量の毒を注入された人間を解毒して助ける事は不可能だった。だから別の方法を取るしかない。

「アレン!!」

 ゼンティが振り向きもせずに呼びかけると、いつの間にか後ろに控えていた武装姿のアレンが前に出てきた。

「彼を運んで」
「承知しました」

 ゼンティの短い言葉で全てを察したアレンは、ドックを抱き上げて城の外へと歩いていく。

 しばらくすると馬車が発車する音が聞こえた。アレンが馬車でドックをどこかに運ぶようだった。

 リィラは不安に瞳を揺らしながら遠ざかっていく馬車の音に耳を澄ませていた。

「ドックさんを病院に運んだの?」
「うーん……ちょっと違うかな。彼とはまたベスティア国で再会できるよ」

 その遠回しなゼンティの説明でリィラも全てを察した。
 ドックはこれから森の中で獣魔に捕食される。
 毒による瀕死のドックを助ける方法は、これしかない。生きているうちに獣魔に食わせて、獣魔の体となって生きる。

 人間の体を得た獣魔は、捕食した人間の記憶もそのまま保有している。ある意味、人間が獣魔に『生まれ変わる』のだ。

 以前のリィラなら拒んでいただろう捕食行為だが、今は不思議とその再生に希望を感じられる。それは獣魔と人間の共存の形なのかもしれない。
 幸い、獣魔は毒が好物。ドックは長く苦しむ事なく獣魔の餌食となるだろう。

 リィラは遥か遠くの空を見つめてベスティア国を思い出していた。

「……はやくベスティア国にも帰りたいな」

 ベスティア国にはゼンティの両親もいる。あの明るく仲の良い夫婦は相変わらず甘い日々を過ごしているのだろうか。

 故郷であるポワゾンを失ったリィラだが、気付けばベスティア国が新たな故郷になっていた。
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