冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「迷惑じゃない」

 ところが、はっきりと否定の言葉が耳に届き、思わず顔を上げて彼の方を見る。

「面倒じゃない、迷惑じゃない。小夜のことなら」

 再度しっかりと告げられる。聞き間違いではなかったと実感し硬直していると、成明さんはまるで子どもに言い聞かせるように、腰を屈め私としっかり目を合わせてきた。

「だから全部ひとりで抱え込んで決める必要はないんだ」

 彼の声が優しいからか、母との思い出に引きずられていたからか、仕舞っていた想いが胸の奥から込み上げ、同時に目の奥が熱くなる。

 とっさにうつむき、泣かないように必死で瞬きを繰り返す。するといつの間にか肩に腕を伸ばされ、成明さんの腕の中にすっぽりと収まっていた。

「最初に、迷惑だって言って悪かった」

 抱きしめられたことよりも、成明さんの謝罪に驚く。

『正直あれこれ口出されるのは鬱陶しいし迷惑だ』

 そういえば、初めてここに来た頃は全力で拒否をされていた。そんな彼と結婚して、想いを募らせていくなんて。

 私はゆっくりと首を横に振った。すると成明さんはこちらをうかがうように腕の力を緩めてきたので、彼と至近距離で視線が交わる。

「誕生日、おめでとう」

 出会ったときには想像もつかなかった。成明さんが、こんなに穏やかで慈しむような表情をするって。これを向けられるのは、妻だけの特権かな?

「はい。ありがとうございます」

 笑顔で答える。さっきまでの胸を覆っていた切ない気持ちや寂しさはどこかには吹き飛んでいた。
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