冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 植物園に入園すると、冬ならではの彩りが少ない景色が続く。けれどメインの温室に足を踏み入れたら、緑に包まれた別世界が待っていた。

 じめっとした湿り気を帯びた温かい空気が全身を包み、上着を脱ごうか迷う。人口密度も一気に高くなり、カップルや家族などで賑わっていた。

「まさに南国って感じですね」

 しみじみと呟く。独特な形や色の花は、異国情緒たっぷりだ。一歩進んでは花の説明を読んで、写真を収めようとしゃがんだり、背伸びして上の方を眺めたり一つひとつを堪能する。

「忙しいな」

 からかいを含んだ成明さんの声に、彼の方に意識を向ける。

「す、すみません」

「いいんじゃないか。そこまでじっくり見てもらえたら花も本望だろうな」

 そう言う成明さんは楽しんでいるのかな?

「三神先生?」

 そこで声をかけられる。声のする方を見ると、小さな男の子連れの家族がいた。父親に抱っこされた男の子は二、三歳で、その隣に立つ母親が、驚いた顔をしている。

「お久しぶりです、阿部翔太の母です」

 頭を下げる母親に、続けて父親も軽く会釈をした。三神さんはゆっくりと家族に近づいていく。

「お久しぶりです」

 優しい声色で三神さんは挨拶を返した。

「翔太くん、大きくなりましたね」

「はい。もうすぐ三歳になるんです」

 どうやら、翔太くんは成明さんの患者だったらしい。

 当時まだ十カ月だった翔太君が、家で突然倒れ心肺停止状態になり、お母さんはパニックになりながらも救急車を呼んで第一総合病院に運ばれたそうだ。
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