冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「できることをしただけで、実際に救えなかった命もたくさんある。あの子が助かったのは、彼自身の持つ生命力のおかげだ」

 謙遜や突っぱねるのとはまた違う。彼の表情には悔しさや悲しさが滲んでいた。

 翔太くんみたいに助かったり、手術が成功したりした例はいくらでもあって、今の成明さんの医師としての評価につながっている。

『同じ階で入院していた友達が……三週間前に死んじゃったの』

 でも、きっとその裏では、たくさんの死を経験してきたんだ。

 胸がぎゅっと締めつけられる。

「医者として、患者の死にいちいち感傷に浸っていられないが、慣れる真似もしたくない」

「……それで、いいと思いますよ」

 成明さんの言葉を静かに肯定する。

「だって、後悔したってしょうがないと思いながらも、後悔するのが人間ですから。でも結局、生きている人は亡くなった人の分まで前を向いて進んでいくしかないんだって……そう思っています」

 母の病気が発覚したとき、母が亡くなったとき、悲しさと同時に押し寄せてくるのは後悔ばかりだった。いくら後悔しても、母は返ってこないのに。

「患者の家族だった身から言わせてもらうと、お世話になった先生には、母のことを覚えていてもらえたら……普段忘れていても、たまにでも思い出してもらったら十分です」

 ああ、こんな患者さんいたなって。

「大丈夫です。成明さんが患者さんに向き合って、助けたいって気持ちをいつも持ってくださっているの、ちゃんと伝わってますから」

 自信を持って言える。見た目や腕だけではなく成明さんは素敵なお医者さんだ。堂々と告げたものの目を丸くしている成明さんに、ふと冷静になる。
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