冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 夢みたいな一日だった。マンションに帰ってシャワーを浴びてから、自室で今日撮った写真を見返す。少しずつ本物の夫婦に慣れているかな。

 胸の奥がじんわりと温かい。そこでバスルームから出てきたとき、成明さんの姿はリビングにはなかったのを思い出す。そのまま自室に来てしまったけれど、一応声をかけた方がよかったかもしれない。慌てて彼の自室へ歩を進める。

 そっと近づくと話し声が聞こえた。もしかすると電話中なのかもしれない。回れ右をしようとして、不意に彼の声が耳に届いた。

「浩明は相変わらずだな――結婚生活?」

 電話の相手は浩明さんのようだった。そして向こうから尋ねられた内容も想像がつく。

 成明さんは、なんて答えるのだろう?

 さっさと去るつもりが、動けなくなっていた。ややあって聞こえてきたのは、大きなため息だ。それだけで心臓が大きく跳ねる。

「そうだな。正直、なにもかも思い通りにいかない」

 え……?

 あまりにも予想外の反応に呆然とする。

 どういう……意味なのか。少なくとも今日、ふたりで出かけて距離が縮んだ気がした。それは私の思い違いだったの?

 成明さんの口調や言い方からして、彼にとってこの結婚生活が本意なものではないのは伝わってくる。

 成明さんはどんな結婚生活を望んでいるの?

「ああ。山本先生の姪とは会っている。もちろん小夜には言っていない」

 続けられた言葉は、ますます信じられない内容だった。

 山本先生の姪って……石坂さん? 会っているってふたりで? どうして?

「しょうがない。父さんにも言われている」

 お父さんの存在が彼の口から飛び出し、鼓動はさらに加速する。

『今の両親に引き取られたから、今の自分があると言い切れる。感謝しているし、恩を返したいとは思っている』

 成明さんは、やっぱり……。

「とにかく、さっさと終わらせたいんだ。こんな猿芝居」

 嫌悪感たっぷりに吐き捨てられ、耐え切れず私はその場を去った。
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