冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「あら、久しぶり」

 病院を出たところで声をかけられ顔を上げる。そこには今一番会いたくない人物の姿があった。

「石坂さん……」

 彼女への苦手意識や成明さんの発言もあって心臓が勝手に早鐘を打ち出す。オレンジ色のワンピースに黒のロングジャケットを羽織り、メイクもばっちりだった。

「旦那さんの職場にわざわざ顔を出して……妻として牽制のつもり?」

「違います」

 まさかそんなふうに受け取られるとは思わず、つい反論した。石坂さんはおかしそうに笑う。

「なら賢明ね。もうすぐ妻じゃなくなるんだから」

 彼女の言葉で頭が真っ白になる。意味が理解できずなにも言えない私に、石坂さんは嘲笑うように笑った。

「三神さんがあなたと結婚した理由、知らないとでも思った?」

 含んだ物言いに、私は取り繕いもせず嫌な顔になる。しかし、石坂さんは満足した表情だ。

「だっておかしいもの。三神さんがあなたみたいな人間を選ぶわけない。彼、関係者の娘や親戚と、いろいろな相手を紹介されて嫌気がさしていたって聞いているわ。実際に女性からのアプローチも堪えないって」

 石坂さんの話す内容は、おおよそ当たっている。けれどうしろめたいことはなにもしていない。

「いくらもらったの?」

「お金なんてもらってません!」

 反射的に返す。雇われる身ではあったけれど、結婚に関して金銭のやり取りはない。成明さんはお金でどうこうしようとする人じゃない。
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