冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「桑名さんが後輩で入ってきてくれたときは、本当に嬉しかったわ。やっと身代わりができたって。森下課長、若い子が大好きだもの」

 その発言に背筋が凍る。私が入社する前は、石坂さんも私と同じように森下課長からいろいろ迫られていたの?

「私には出世のために取り入ろうとしたんでしょうけれど、今度の新しい子はご両親がいないって可哀想な生い立ち付き。森下課長を炊きつけるのにはぴったりで、簡単だったわ」

 そこで森下課長の言葉がよみがえる。

『石坂さんから聞いている。甘えたいなら、いつでも私を頼ってくれてもいい』

『そう意地を張らず、素直に頼ってほしい。石坂さんから聞いているんだ』

 そうだ。いつだって森下課長は石坂さんから聞いた、と。

 嫌悪を通り越して恐怖を覚える。

「いいわよね。それでいて周りから同情を買って、こちらの欲しいものをあっさり掠め取っていくんだもの。本当に腹が立つ」

 あまりにも一方的だ。同情なんて、むしろして欲しくない。だいたい、石坂さんの欲しいものって?

「なんで三神さんがあなたと結婚したと思う?」

 考えを巡らせていたら、石坂さんが問いかけてくる。笑いながら彼女は顔を歪ませた。

「両親がいないからよ。面倒な挨拶も顔合わせもなく結婚できて、別れるのも簡単だもの。一時しのぎの相手にはぴったりだったってわけ」

 さすがに言葉を失う。彼女は足を動かし、呆然とする私の横を通り過ぎていく。

「最初から素晴らしいご両親が揃っている彼と、あなたみたいな人が釣り合うわけがないでしょ。なにを夢見ていたのかしら」

 振り返ることも、言い返すこともできない。私はしばらくその場から動けなかった。
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