冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 どうやってマンションに帰ったのかは、わからない。家事をしなければならないのに、ソファに腰を下ろし、なにもする気がおきず、石坂さんとのやりとりがひたすら脳内で再生されていた。

 成明さんはご両親をすごく大事にしている。血が繋がっていないにもかかわらず、引き取って育ててもらったという恩の重さは、私には想像ができない。成明さんの抱える葛藤も。

 ただ、お父さんと同じ道に進んだのは、成明さんにとってそれだけ両親の影響が大きいということなんだ 。

『しょうがない。父さんにも言われている』

 そんなお父さんが勧める結婚相手なら、成明さんだって考えるだろう。

 そもそも私たちの結婚は、愛し合って一生を誓い合ったものではない。いつだって終わらせられる関係だ。

 もしも成明さんに別れを切り出されたら……受け入れるしかないのかな。少しはごねてもいい?

『だから全部ひとりで抱え込んで決める必要はないんだ』

 ひとりじゃないって思えた……自分からそばにいたいと願った人だから。

 悩んでいてもしょうがない。石坂さんの言ったことがどこまで本気かわからないし、成明さんの発言も気になる。直接尋ねてみよう。

 意を決するが、肝心の成明さんは、今晩は当直でいない。夜勤と当直の違いは成明さんから聞いた。大きなトラブルはなく過ごせているようにと願う。

 祈りながら広いリビングを眺め、ため息をついた。

 私、なにか仕事を始めた方がいいのかな。

 引っ越しや結婚などで一時就職活動を中断していたが、再開してもいいのかもしれない。

 働くこと自体は好きだった。もちろん成明さんの力になるように家事は担うつもりだが、子どもを作る予定もない。そもそも結婚しても体の関係にはなっていないのだ。

 改めて客観的に私たちの関係を見ると、私と成明さんをつなぐものは、あまりにも脆くていつ千切れてもおかしくない状態のだと実感する。

 成明さんに……会いたい。

 胸がぎゅっと締めつけられ、痛む。成明さんならこの胸の痛みを治せるのかな。
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