冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 なんで? 声にならず、成明さんの腕の中で目だけで訴える。

「小夜は俺の妻なんだ。……愛し合える夫婦ならこういうことをするんだろ?」

 真剣で、でもどこか怒っていて。揺らめく怒りの炎を瞳に中に見つけ、反対に私は冷水を浴びせられた気分だった。

 私の発言がそんなに気に入らなかった? 大きなお世話だった? だからって……。

「違い、ます。夫婦だからって……こんな真似しなくてけっこうです」

 形だけの愛なんていらない。そんな誠意はいらない。

 ぐいっと成明さんを押すと腕の力が緩み、抜け出して立ち上がる。

「小夜」

 名前を呼ばれたが、「おやすみなさい」と一言だけ返し、そのまま振り向かずにリビングを出る。

 傷ついているのは、少しだけなにかを期待していたからだ。初めてキスしたときも、今も。成明さんの気持ちが少しでも私にあるんじゃないかって――。欲深い自分が情けない。

 先日の電話での発言でも思い知ったはずだ。

 最初から割り切った結婚で、私が望めばキスもしてくれる。でもそれは私が彼の妻だからだ。裏を返せば、相手が他の女性でも石坂さんでも、結婚したら同じように成明さんは妻として扱うのだろう。

 人を好きになるのって、こんなにもつらいんだ。じわじわと滲む痛みに泣きそうになるのを堪え、私は自室へ駆け込んだ。
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