冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「お疲れさまでした」

 成明さんに声をかけると、彼は大きく息を吐いた。成明さんとこうして向き合うのはものすごく久しぶりな気がする。

「ああ。上手くいってよかった、いいオペができた」

 彼の安堵めいた表情は、疲れよりも先に満足感で満たされている。どれくらいの緊張感の中で、手術をしていたんだろう。患者の命を預かるって、とてつもない重責だ。

「小夜」

 先に帰る旨を伝えようとしたら名前を呼ばれる。

「五階の応接室で待っていてくれないか? この後、俺も行くから」

「え?」

 突然のお願いに戸惑う。どうしてわざわざ応接室? それを尋ねようにも成明さんは、慌ただしく戻っていってしまった。

 手術を終えたとはいえ、彼にはまだ、しないといけないことがたくさんあるだろう。

 断る理由も浮かばず、私は言われた通り五階に向かう。

 特別フロアとでもいうのか、病棟の雰囲気とは違い上質な空間が広がっていた。念のためノックをしてゆっくりとドアを開けると、そこには先客がいた。

 大きなソファに、六十代くらいの男女が並んで腰を下ろしている。白髪交じりの髪をきっちり整えたスーツ姿の男性と、ライトグレーのワンピーススーツに身を包んだ上品で優しそうな女性だ。

「もしかして……小夜さん?」

「は、はい。桑名小夜です」

 とっさに旧姓を名乗ってしまったが、かまわないだろうか。それにしてもどうして私を知っているのか。
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