冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 子どもながらに家庭環境がガラリと変わるのは、結果的にいいものだとしても、それなりに葛藤とストレスがあったはずだ。その頃の成明さんを想像すると胸が痛む。

「医者になったのは父の影響がたしかに大きいが、それ以上に〝どうして自分がこんな目に遭うのか〟って思い悩む子どもをひとりでも救いたかったからだ。でも、医者になったら、さらに好き勝手に先入観を抱かれる機会が増えた。そういうのに振り回されるのが面倒で、仕事以外で他人との関わりはなくてもいいと思っていたんだ」

 初めて成明さんを見かけたとき、あからさまに相手を拒んでいた理由が、彼の事情を知ってやっとわかった。私にあんな形で結婚を申し込んできたのも――。

「けれど、小夜は俺の経歴も職業もはっきりと興味がないと言ってきたから、正直面食らった」

 不意に彼の口から私の名前が紡がれる。腕の力が緩んだので顔を上げると、成明さんは口元にかすかに笑みを浮かべていた。

「かと思えば、自分事のように俺のことで泣いたり怒ったり、一生懸命で……」

 思い当たる節があるようでないような……。つい感情的になるのは私の悪い癖だ。でも、笑みを噛み殺した成明さんの顔に安心する。彼を見つめていると、視線がはっきりと交わった。

「俺が面倒だって諦めてきたものを、小夜は大事にしてくれる。ずっと他人を拒んできた人生で初めてそばにいてほしいと思った」

 瞬きひとつできず、真剣な彼から目を逸らせない。
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