冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 盗み聞きはよくないと思い、目の前の見た目もこだわったスイーツとセイボリーに意識を戻す。さつまいもクリームの乗ったカナッペは塩気と甘みが絶妙だ。

「ないですね。水と、人間が活動できる必要最低限の栄養素を含んだもの――それこそサプリでまかなえるなら事足りる話なので」

 しかし男性の声質のせいか、そんな大きな声で話しているわけじゃないのに 嫌でも耳に入る。カクテルパーティ効果というべきか。

 さっきから男性の発言は氷のように冷たく、それを告げるときも眉ひとつ動かさない。

「そもそも他人が作ったものは食べたくないんです。なにが入っているかわかりませんから」

 私が直接言われたわけではないのに、刺々しい言葉に胸が痛くなる。

「だったら今、欲しいものはなんですか?」

 この状況でも話題を振る女性に内心で拍手を送る。とはいえ、声が心なしかやや震えているようにも思えた。

 一度意識してしまうと、ふたりのやりとりが気になる。私はひとりで優雅な時間を楽しみたいだけなのに……。

 気を取り直してスコーンをふたつに割り、マロンクリームを塗ってアクセントにベリーソースをちょっとかける。

 美味しそう。一口頬張ろうとした瞬間――。

「今すぐで言うなら、新鮮な豚の心臓。いくらあっても困らない。できるだけ活きがいいものが望ましいな」

 日常生活ではまず聞かない単語が聞こえ、勝手に想像してしまい口を閉じる。

 え、豚ってあの豚? 生?

 勝手に混乱していると、男性がこれ見よがしにため息をついた。

「これ以上時間を無駄にしたくないので失礼しても?」

 腕時計にちらりと視線を送る姿さえ様になっているが、質問をしているようで彼に相手の意思などを汲むつもりは毛頭ない。
< 3 / 166 >

この作品をシェア

pagetop