冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 医療法人碧望会(へきぼうかい) 第一総合病院。母が入院し、亡くなったのもこの病院だった。

 逆に言うと、訪れるのはそれ以来になる。外観の看板が新しくなっていたり、院内も明るく綺麗になっていたりした。売店も全国チェーンのコンビニに変わっている。あれから十年になるんだ。

 懐かしいようで、わずかに胸が痛む。

 クルーネックのホワイトニットと膝下まであるグレーのプリーツスカート、それに長年 使っているお気に入りのPコートという私の定番スタイルで中に進んでいく。

 患者、患者家族、業者、医療関係者が行き交い、会計待ちの患者が大きな画面に自分の番号が表示されるのを今か今かと待っている。その横にある総合受付に歩を進めた。

「すみません」

「はい、どうされました?」

 手慣れた雰囲気の若い女性がにこやかに対応してくる。

「外科の三神先生に渡していただきたいものがあるのですが……」

 おずおずと告げると、女性の顔が一瞬曇った気がした。

「三神先生に、ですか?」

 な、なにかまずいことを言ったのかな?

 心なしか他の受付の女性もこちらに視線を送っている気がする。

「はい。本人に頼まれたものなんです」

 けっして怪しい代物ではない。しかし女性の表情は険しいままだ。

「どちら様でしょうか?」

「桑名と申します。三神先生の……親戚です」

 迷った挙句、彼との関係は親戚と答えた。まさか雇われ家政婦とは言えないし、知人や友人なら彼の忘れ物を届けるのは不自然だ。嘘はついていない。元々、結菜と浩明さんが結婚すれば親戚になるからという 理由で三神さんのところに行くことになったんだし。
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