冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
 三神さんに何度も頭を下げ、救急車はサイレンを鳴らし、遠ざかっていった。それと同時に人だかりもなくなっていく。

 張り詰めていたなにかが切れ、どっと疲れが押し寄せてくるのを、足に力を入れてなんとか踏ん張る。

「お疲れさまです」

 私より三神さんだ。さすがに戸田さんにかけたコートを着るわけにはいかないからか、畳んだ状態で腕にかけている。

「三神さん、さすがですね。あの方、幸運だったと思います」

「たいしたことはしていない」

 淡々と返す三神さんに、私は苦笑する。

「三神さんにとってはそうかもしれませんが、処置も的確でなにより一緒にいた男性は、すごく心強かったと思います。私ひとりだと、なにもできずにパニックになっていただけですから」

 お母さんが倒れたとき、驚きと衝撃で私はとっさに救急車が呼べなかった。もしもあのとき、三神さんみたいな人がそばにいてくれたら……。

 頭を振って考えを振り払う。今は感傷に浸っている場合じゃない。

 すると三神さんが口を開く。

「極力冷静になることが、簡単なようで一番難しいのかもしれない。でも救急車なり誰かを呼ぶだけで十分だ」

 フォローされたのかなんなのか。母のときの罪悪感が少しだけ軽くなる。

「次は……ってないようにしたいですけど、そうできるように頑張ります」

 小さい声で返し、ふと気づく。三神さんはこの寒空の下、コートを着ていない。

「帰りましょう。風邪引いちゃいます」

 三神さんは車で来たのかな? だとしたら地下駐車場?

「私、電車で帰るのでここで失礼します」

 最寄駅から結菜のマンションと三神さんのマンションは反対方向になる。
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