冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「夕飯を用意していますので、冷蔵庫に入っているおかずを温めてくださいね」

 念のために伝えると、彼は自身の腕時計に視線を遣った。

「付き合わせて遅くなったな。送っていく」

 意外な申し出に目を瞬かせる。しかし私はにこりと微笑んだ。

「大丈夫ですよ。それに三神さん、一刻も早くその本を読みたいでしょ?」

 私の指摘に三神さんが虚を衝かれた顔になった。その反応に少しだけ満足する。すると三神さんはにっと口角を上げた。

「そこまでわかっているなら、ここで別れる選択にはならないんじゃないか?」

「え?」

 言っている意味が理解できずとっさに聞き返した。

「君の言う通り、帰ったら早速読むつもりだ。食事も睡眠も正直二の次で」

「だ、だめですよ。ちゃんとご飯を――」

「だったら、支度してくれないか?」

 彼の言わんとする内容を悟り、逡巡する。ややあって、軽く肩を落とした。

「しょうがないですね。でも、そうですね、三神さんが食べるのを見届けるのも私の仕事ですから」

 彼に、というより自分に言い聞かせているようだった。

 変なの。今までの三神さんなら、私にあれこれ言われるのが嫌で、冷たくあしらって拒絶していたのに。

 少しは私のことを必要として……認めてくれているのかな?

 その考えが頭を過ぎり、全力で否定する。

 きっと深い意味はない。食事するつもりで、彼の言葉通り本当に用意するのが面倒だと感じただけなのかもしれない。
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