冷血心臓外科医はお飾り妻を逃がさない~愛なき契約から始まる甘く暴かれる独占婚~
「この状況の中、自分で帰ろうとされる方が迷惑なんだが?」

 私は口をつぐむ。

 タクシーが頭をよぎったが、この雨の中すぐに掴まる保証はない。それに、正直節約したい気持ちもある。けれど今は三神さんの手を煩わせるよりはよっぽどいい。

「タクシーはこの雨だ。すぐに来るとも限らない」

 私が提案する前に彼に言われてしまった。

「送っていく」

 悩んでいる私に、彼が先ほどよりは落ち着いた口調で再び告げた。

「大丈夫です! 三神さんになにかあったら……職場の方や患者さん、困る人がたくさんいますよ!」

 それこそ三神さんが風邪でも引いたら、健康を損なわないために頼まれてやってきた私の立場がない。心なしか雨音が強くなった気がして、電車がまだ止まっていないか確認しようとした。

 すると三神さんが小さくため息をついた。

「自分はいいのか?」

「え」

 小声で問いかけられ、私は彼の方を見た。すると三神さんがこちらに近づいていて縮まっている距離に驚く。

「君になにかあったら俺が困るんだ」

 真剣な表情と声色に、硬直する。沈黙が降りて、凄まじい響きを立てている雨が存在を主張するだけだ。

「私は……」

 やっとのことで声を出したのに、先が続かない。

 大丈夫です、と言って三神さんが納得しないのはわかった。なにより、ここでそう答えるのは、私を気遣ってくれた三神さんを蔑ろにする行為だ。

 どうしたら……いいの?
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